米国にはいくつかの読み違いがあった。一つが「イスラム国」の台頭である。2010年からの「アラブの春」がチュニジアやエジプトからシリアへと波及した際、オバマ政権は民衆の蜂起でアサド政権は崩壊するだろうと読んでいた。その推測に基づき、米国は反アサド勢力の結集を呼びかけアサド政権を孤立させようと試みたのだ。
しかし、その読みは外れた。結果として一部のイスラム過激派が民主化運動を乗っ取り、無信仰の人々や非イスラム教徒を迫害した。極端なイスラム原理主義国家であるイスラム国を設立したのである。
イスラム国だけではない。オバマ政権はシリアでもう一つの読み違いを犯した。ロシアの軍事介入である。米政府は当初、ロシア政府に対してアサド政権がいかにあしき存在であるかを説明し、「ロシアは歴史の正しい側につけばいい」と説いていた。しかしロシアもシリアの利害関係国であり、ジハード主義者に乗っ取られた事態に深刻な懸念を抱いていた。イスラム国のテロリストにはチェチェン共和国から流れた過激分子が含まれているともいわれていた。
荒廃したシリアに差す一筋の光
多くの知識人は、米国がシリアに軍事介入しなかったことで一般市民が戦争に巻き込まれてしまったことを嘆いている。しかし本質的な課題は別にある。実現可能で平和的な和解に至るため、米国が交渉の先鞭をつけられなかったことである。
その原因はおそらく政治的な保身と関係している。米国では他国以上に、意見を変えることは自分の意見を持っていないことだと嘲笑される。自分の意見がないことは、欠陥のある意見にしがみつくよりひどい状況だと見なされるのだ。
しかし過去を向いてばかりではいけない。すでに希望も見えつつある。イスラム国はシリアにおいて勢力を失いつつあり、米国とロシアが軍事協力についての議論を始めている。両国の協力関係は荒廃したシリアをどのように立て直すかのカギを握っている。スンニ派が新国家を設立するのか、分断国家となるのか、予断を許さない。何より望まれるのは、一刻も早く虐殺を終わらせて平和を取り戻すことである。
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