夢の抗がん剤「オプジーボ」への期待と不安 臨床試験は失敗、年3500万円の高額に批判も

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治験の失敗は短期的な業績悪化に直結しないが、現時点で見込まれる将来の期待売上高は減る。クレディ・スイス証券の酒井文義アナリストは「オプジーボの今の薬価で年間3000億~5000億円と考えられる、未治療の非小細胞肺がんの国内市場を、後発となる米メルクの『キートルーダ』に奪われる可能性がある」と見ている。

ただ、今回の結果で、オプジーボの有効性自体が否定されたわけではない。未治療肺がん向けでは、BMSが引き続き、オプジーボ単剤やほかの薬剤との併用療法の治験を進めている。小野薬品とBMSは、胃がんや食道がんなどでも治験を行っている。ほかの治験で良好な結果が得られれば、挽回の芽はある。

オプジーボの薬剤費は年3500万円にも

むしろ、短期的に業績に影響を与えそうな下押し要因は、薬価引き下げのほうだ。肺がんの場合、体重60キログラムの患者のオプジーボの薬剤費は年間約3500万円にもなる。当初の適応症が、患者数の少ない悪性黒色腫だったため、高い薬価がついた。薬剤費の大半は税金や保険料で賄われており、医療財政への莫大な負担が懸念される。

国が決める薬価は2年に1回の薬価改定で引き下げられる。次回は2018年度だが、オプジーボについては特例として、それ以前の期中改定も議論されている。さらには今年4月に試行的に導入された、「費用対効果評価」の対象にもなった。効果に対して割高と判断されれば、2018年度にも価格が引き下げられる。

小野薬品はオプジーボを投与できる医療施設と医師の要件を定めている。が、これとは別に、国も高額薬剤の適正使用のための指針作り、いわば“使用規制”に動き始めた。

がん免疫薬というジャンルが立ち上がってまだ2年。国も製薬会社も手探り状態だ。数々の事情に翻弄されるのは、先駆者であるオプジーボの宿命なのかもしれない。

長谷川 愛 東洋経済 記者
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