株価上昇がもたらす、バブル増殖のメカニズム 本業不調でも、保有株が上昇すると経常利益は増加

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厳しい経済の実態を営業利益減少に見るべき

13年1~3月期は株価がさらに上昇しているので、経常利益は増加するだろう。日経平均株価は、12年9、10月頃には9000円程度だった。それが3月初めには1万1000円程度になっている。これは、22%の増加だ。したがって、企業保有株式は、10~12月期末の70兆円の22%、すなわち15.4兆円ほど増える。その11.2%は、1.7兆円だ。

仮に1~3月期の営業利益が、10~12月期と同額であるとしよう。すると、先の式によって、経常利益は1.7+0.45=2.15兆円増加する。10~12月期の経常利益は12兆7901億円なので、1~3月期には14兆9401億円になる。これは、16.8%という大幅な増加だ。前年同期に比べると9.0%の増加だ。

他方で、営業利益は対前年同期比10%減だ。本稿の最初に述べたように、10~12月期には、経常利益と営業利益の伸び率が反対になった。その傾向が拡大することになる。

この場合の通期の利益は、次のようになる。13年3月期の営業利益は40兆6446億円で、対前年比2.6%の減、経常利益は50兆8299億円で、8.8%の増だ。

このように、営業利益と経常利益の乖離現象が生じる。どちらで見るかによって、日本経済の状況に関する印象は非常に違うものになる。

どちらが日本経済の実態をより正確に表しているのだろうか? それは、営業利益である。これまでこの連載で述べてきたように、輸出数量が大きく落ち込んでいるため、売り上げも営業利益も落ち込んでいるのだ。国内生産の落ち込みは、中小企業への発注の減少という問題を起こす。中小企業にとっては、事態は厳しさを増している。

先の式によれば、13年1~3月期の営業利益が12年10~12月期から減少しても、経常利益は増えることがある。営業利益の減少幅が2.15兆円までであれば、経常利益は減少しない。したがって、日本経済が抱える深刻な問題は覆い隠されてしまう。

こうして、13年3月期の決算では、営業利益が落ち込んで、経常利益が増価する可能性が高い。株価上昇で、日本経済が抱える問題は覆い隠されてしまうのだ。したがって、営業利益を見るべきなのだが、それについてはあまり言及されないだろう。

そして、「日本企業の利益増大」というキャッチフレーズが喧伝され、株価を煽るのに使われるだろう。3月期決算の見栄えをよくするため、これから官民を挙げてのキャンペーンが行われるだろう。

しかし、時価評価で生じた利益は、未実現の利益だ。株価のバブルが崩壊すれば消えてしまう。経済の実態は厳しいことを、営業利益を見ることによって再確認すべきだ。

週刊東洋経済2013年3月23日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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