尖閣問題、中国の主張には2つの誤りがある なぜ、今になって強硬姿勢を見せているのか

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このような事情から、日本政府は、尖閣諸島については「解決しなければならない領有権の問題は存在しない」という見解であり、中国側が国際司法裁判での決着を望むならいつでも受けて立つという姿勢である。

厄介なのは、日本が軍国主義の下で中国から領土を奪取したという歴史観が中国にあることであり、それは、具体的な表現はともかく、筋道としては誤りでない。

日本が尖閣諸島を編入したのは侵略の一環?

たとえば、中国は、1895年に日本が尖閣諸島を日本領に編入したことを日本の侵略の一環としてとらえている。日本政府は、日清戦争(1894年6月~1895年3月)とは関係ないことであったとの立場だが、中国側は狭い意味での戦争行為のみならず、日本の行動全体を問題視しているのだ。この両者の異なる立場について明確なかたちで白黒をはっきりさせるのは困難だろう。

しかし、中国の主張には明らかな誤りが2点ある。その1つは、日本が編入するまで尖閣諸島は中国領だという前提に立っていること。もう1つは、中国が尖閣諸島は台湾の一部と考えていることだ。しかし、地理的な近接性が領有権の根拠とならないことは確立された国際法である。

中国の歴史観は、1992年に制定した「中華人民共和国領海及び接続水域法(領海法)にも表れている。この法律では、「台湾、尖閣諸島、澎湖諸島、東沙諸島、西沙諸島、南沙諸島は中国の領土である」と途方もないことを規定したのだが、これらはたしかに、かつて日本が領有していた島嶼・岩礁であった。

中国は南シナ海、台湾、東シナ海を含む広大な海域について、「管轄権」を持つと主張することもあるが、同じことである。

国際法的には、サンフランシスコ平和条約の解釈が決定的な意味を持つ。同条約では、台湾は日本が放棄すると明記されたが、尖閣諸島の扱いは何も記載されなかった。しかし、その後の米国による沖縄統治の間に尖閣諸島は沖縄の一部として扱われた。したがって国際法的には尖閣諸島は沖縄の一部であったと解されていたのである。

今回の侵入事件のきっかけとなったのは、さる7月12日、南シナ海におけるフィリピンと中国との紛争に関し国際仲裁裁判所が中国側全面敗訴の判決を下したことだ。この裁判は台湾や尖閣諸島を対象にしていないが、中国にとって今回の仲裁裁判結果は、台湾や東シナ海についての領有権主張も「根拠がない」と判断されることを示唆する危険な判決だ。

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