IT革命で潤うのは「トップ1%」だけ 『機械との競争』著者のアンドリュー・マカフィー氏に聞く
――機械との競争は、産業革命の時代からありました。
産業革命は、労働者にとって朗報だったが、IT革命は労働需要を減らす。産業革命では、イノベーションや起業で新しい会社や工場が生まれ、膨大な数の労働力が必要になったが、IT革命は真逆と言ってもいい。非常に大きな違いがある。
すでに無人自動車や文書作成コンピュータも誕生している。どれも10年前にはなかったものだ。あと何年か経てば、米国の会社に日本語で電話をかけると、自動応答機が日本語で答えてくれるようになるだろう。今はまだクオリティが完璧ではないが、もはやサイエンスフィクションの世界の話ではない。その結果、通訳の仕事が減るかどうかは、まだ分析していないが、テクノロジーの進化で労働へのニーズが減る場合があるのは、これまで話したとおりだ。
ハイテク企業の少ない社員数
もちろん、10年前には存在しなかったデータ科学者など、新たに生まれた職種もある。技術革命には、破壊と創造が付きものだ。とはいえ、「創造が常に破壊をしのぐ」という経済法則はない。これまでの革命にはそれが当てはまったが、IT革命で創出される仕事は、数が多くないうえに、ハイエンドの仕事が多い。アマゾンとアップル、フェイスブック、グーグルの4社の株価を足すと、時価総額はざっと9000億㌦(約84兆円)に上るが、4社全部を足しても、社員数は19万人足らずだ。
――機械と失業の議論は、経済学的にも受け入れられていますか?
浸透しつつある。大不況後に雇用が回復していないからだ。同僚の多くは、テクノロジーと雇用、経済成長の関係を見直すべきだと言い始めている。テクノロジーは起業と雇用を生むため、低賃金化や失業を招くはずがないというのが定説だったが、そうした見方は少しずつ変化している。労働市場の実態が変わっているからだ。
――テクノロジーがもたらす正と負の影響を相対的にどう評価しますか?
交通やコミュニケーション、エンターテインメントなど、個人的には、プラスの影響のほうがずっと大きいと思う。どの業界もIT革命の恩恵を受けている。経済が停滞しているにもかかわらず、テクノロジーのおかげで効率性が高まり、米企業は過去最大の収益を上げている。製品やサービスも格段に向上した。コストも下がっている。
その結果、誰もが消費者として恩恵を受けている。たとえば、20年前のスーパーコンピュータに相当するアイフォーンが、わずか200~300ドルで手に入る。テクノロジーは、万人に消費者としての恩恵をもたらすのだ。ただし、万人に仕事をもたらすわけではない。問題は、テクノロジーが非常に大きな力を持つ世界で、人々が豊かな生活を送れるだけの収入を稼ぐ能力を身に付けられるかどうか、だ。
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