トヨタが「できる人」を作る秘密の仕組み マニュアルを超える「標準」の威力
2つ目の盲点は「できるはず」です。再び、大嶋のエピソードを紹介します。
「私がトヨタ時代にある設備の修理手順を要領書にまとめたとき、ベルト切り替えの方法を『設備にあわせてベルトを切って結ぶ』と書きました。後日、後輩がその要領書に従って作業をしたのですが、なかなか終わらない。心配になって見に行くと、私が5分でできる作業を後輩は2時間かかってもできていませんでした。結局、ラインを止めざるをえませんでした」
理由は、簡単でした。ベルト切り替えの場所はスペースが狭く、手が十分に入りません。にもかかわらず、後輩は最初に設備ピッタリにあわせてベルトを切ってから結ぼうとしていたので、うまく結べずにいたのです。大嶋が行った作業は、ベルトを最初に設備に結んでから、余った部分をカットすることでした。こうすればベルトの長さに余裕があるので、狭い場所でも簡単に結べるのです。
「上司から『要領書の書き方が悪い』と叱られたのは私でした。私にとっては『ベルトを結んでからカットする』のが当然で、そこまで書く必要はないと思い込んでいたのです」
部下を「信頼」しても「信用」してはいけない
これは「できるはず」による典型的な失敗です。しかし、あまりに簡単なことまで標準に落とし込むことは、部下を見下しているようで抵抗を覚える方もいるかもしれません。それについてトレーナーの原田敏男は、このように言います。
「トヨタ時代の上司に、部下を『信頼』しても『信用』してはいけないと言われました。部下を人間として信頼し、『彼に任せておけば結果を出してくれる』というスタンスで接することは正しい。
しかし、どんなに信頼できる優秀な部下でも、すべてを完璧にこなせるわけではない。時には、ミスをすることもある。その意味で、信用はせずに、誰もがミスをすることを前提に仕事を頼むという心構えが必要です」
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