世界一清潔な羽田空港を作る「プロの仕事」 清掃とは、これほどまでに奥深い

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一方で、知識や技術が実際の現場で役立てられなければ、プロフェッショナルとは言えません。本に書かれている内容を覚えれば、人に伝授できるかもしれない。しかし、どんなに知識があっても、現場を知らなければ一人前の清掃員ではありません。どういうところが汚れやすいか、素材や汚れに応じてどんな洗剤や道具を選び、どんな手順が効率的かは、実際に現場に出て、身体を動かしながら経験を積まないと決してわからないからです。

管理職になった現在でも、必要な時はスタッフと一緒に作業し、お手本を見せ、実践的なアドバイスをしていますし、そうでなければならないと思っています。常に現場を見て、問題点や課題を把握することが、清潔さを維持していくためになによりも重要なのです。

管理するだけでは本当のプロフェッショナルとはいえません。そもそも現場に出ていなければ、清掃が行き届いているかチェックすることさえ、むずかしいものです。私自身、時間がある時はできるかぎり空港内を巡回し、スタッフの声を聞きながら、さらに清潔な空港をめざしています。

アルバイトも資格取得をめざす人を採用

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かつてに比べれば、清掃員に対する評価もあがってきましたが、まだまだ社会的な地位が低いと思われている部分もありますので、応募する人の経歴やスキルもさまざまです。ただし、やる気さえあれば確実に技術が身につき、清掃の職人としてやっていけます。

技術や知識はその人の財産となり、一生続けられる仕事になります。ですから、モチベーションの高い方に来ていただきたいのです。プロの清掃員の登竜門として「ビルクリーニング技能士」という国家資格がありますが、基本的にはそれをめざす意欲のある人を採用しています。

受験には一定期間の実務経験が必要で、実技と筆記試験があります。社内には実技の練習場を設けていてバックアップ体制も整っているので、アルバイトの人たちにも資格取得を奨励しています。合格は必須ではありませんが、社員はほぼ全員がビルクリーニング技能士の資格をもっています。科学的・体系的に学ぶことで、清掃という仕事への理解がさらに深まっていくのです。

清掃員の制服には2種類あります。黒のベレー帽とポロシャツを着ているスタッフがレストランやショップなどの商業施設の清掃を担当し、つなぎを着ているスタッフはロビーや洗面所などの清掃をおこなっています。弊社の社員やアルバイトだけでなく、協力会社の人々もたくさんいます。それぞれが自分の持ち場で毎日がんばっています。

所属や担当エリアに関係なく、全員が羽田空港を清掃する仲間です。現場主義を重視するのも、風通しのよいチームを作っていくためです。笑顔であいさつし、時には一緒に働き、カバーしあう。管理する側と作業する側が分かれていては、よい関係が築けません。気づいた点はなんでも言い合えるコミュニケーションのよい関係もまた、羽田空港の強みだと思います

新津 春子 日本空港テクノ所属

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にいつ はるこ / Haruko Niitsu

日本空港テクノ株式会社所属。1970年中国残留日本人孤児二世として、中国瀋陽に生まれる。中国残留日本人孤児であった父の薦めによって一家で渡日。95年、日本空港技術サービス(現:日本空港テクノ)に入社。97年に(当時)最年少で全国ビルクリーニング技能競技会一位に輝く。以降、指導者としても活躍し、現在は羽田空港国際線ターミナル、第一ターミナル、第二ターミナルの清掃の実技指導に加え、同社ただ1人の「環境マイスター」として、羽田空港全体の環境整備に貢献するとともに、次代のマイスターを育てる活動を行っている

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