「イスラム国」こそが、反イスラム思想である 当事者への取材によって浮かび上がったこと

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トーデンヘーファーが新たに疑問に思い真実を知りたいと思った対象がISだった。シーア派のジェノサイドを公言し、自分たちの考えに与しない者の斬首を行う彼らの残虐さはアルカイダすら穏健派に見えてしまうほどだ。彼らはどんな思想を持っているのだろうか。また奴隷制を復活させるなど、人類の進歩を真っ向から否定するような行動をとるISになぜ多くの若者が引き寄せられるのか。そしてISの支配地域の住民はどのような暮らしを強いられているのか。

著者はSNSを通じて生粋のドイツ人IS戦闘員アブー・カターダことクリスティアン・Eと接触を重ね、カリフ国事務局が発行した安全保障書を手に入れ息子と友人と共にISへと旅立つ。

洗練された若者たちだった

ISの戦闘員は複数の言語をしゃべる事ができる洗練された若者たちだったという。彼らは当初、ドイツ人3人に好意的に接していた。また彼らの多くが西側の武器を所持していたという。

これらの武器は西側が支援する自由シリア軍やクルド人武装組織から奪い取った戦利品であった。そこまではいいのだが、驚くことにこれらの武器で使用する銃弾や砲弾は自由シリア軍やクルド人武装組織からISが買っているのだという。反IS派の組織の腐敗ぶりがうかがえる。ISの戦闘員も西側が武器弾薬を支援するほどISの武装が強化されると語るほどだ。

著者は出国前にアブー・カターダと話し合い、いくつかの点を除きIS国内を自由に取材することが出来ると保障されていた。しかし、現地に来てみるとの覆面をした鷲鼻の運転手に多くの制約を課せられることになる。ロンドンの下町特有の訛りのある英語を話すイギリス人と思われる覆面男は常に著者たちに隠すことなく敵意をむき出しにする。

運転手というポジションとは裏腹に明らかに著者たちの世話係の中で一番強い権限を持っているようだ。特有の訛りのある口調、特徴的な鷲鼻、半開きの垂れた眼、この運転手は明らかにジハーディスト・ジョンにうり二つだ。著者たちに緊張が走る。だが、多くの規制をかけられつつも、度重なる口論の結果、イラクの街モースルでは比較的自由な取材を行う許可が下りる。

ISは支配地域で出版社や病院を経営し、警察や裁判所も運営している。彼が本当にIS独自の解釈を行ったシャーリアに基づく国造りをしようとしている姿が克明に取材されている。

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