A氏が高齢であることの斟酌の方向性については判決文からでは必ずしも明らかではないが、たとえば交通事故の場合、被害者が高齢であることはその責任を軽くする方向に作用する。したがって、キャリーバッグ事故の場合でも、被害者であるA氏の責任を軽くする方向に働かせたものとも考えられる。
過失相殺の基礎となる加害者と被害者の具体的な過失割合は、交通事故の場合であれば事故態様によりパターン化されている。「右折車と直進車が衝突した場合には80:20」などというようなパターン化である。しかし、交通事故以外の場合にはこのような過失割合のパターン化はなされておらず、最終的には裁判官が「損害の公平な分担」という見地から個々に判断する。このキャリーバック事故も裁判官が事件の実情に合わせて75:25と判断したものと思われる。
そうすると、この加害者B氏と被害者A氏の過失割合が判決において75:25とされたことをどのように評価すべきであろうか。衝突事故の態様は千差万別であり、個々の事故によって過失割合は変わり得る。
当然、一つの過失割合を固定して適用というわけにはいかないが、キャリーバッグの衝突事故が今後も多発することが予想される以上、キャリーバッグの持ち主と衝突してケガをしてしまった人との過失割合がどうあるべきかは、気になるところである。
車の事故と考え方は同じ
本件で、「A氏が高齢者である」という事情はA氏の過失を軽くしたものと思われることはすでに述べた。交通事故の場合、幼児や高齢者の事故当事者については、パターン化されている通常の過失から5~10%程度を減じることが多いので、本件のようなキャリーバッグ事故の場合には、被害者の通常の過失割合は30~35%、加害者については65~70%程度となる可能性があることになる。
本件判決が認めた過失割合と、交通事故の過失割合パターンとを比較してみる。たとえば、高速道路の本線上を走行してきた自動車(A車)と進入路から高速道路に進入してきた自動車(B車)とが衝突した場合、A車の責任は30%、B車の責任は70%とされる。
過失割合の数値的にはこれが類似するものの一つとなろう。高速道路では、本線上のA車が優先であるからB車に比較して責任は軽くなるものの、A車は進入路から他車が進入してくる可能性があることを認識して危険予知と危険回避をすべき立場にあるから、その分責任は免れないのである。
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