ケヴィン・ケリー、「人工知能の未来」を語る 人に残される仕事とはいったい何なのか?
――新しいテクノロジーに対しては警戒感も強くなりがちです。
テクノロジーは決して使うのを禁止したり違法にしたりするべきものではなく、使い倒すことによって初めてその弊害を最小限に抑え、人間にメリットをもたらすことができる。その正体がわからないうちから禁止するのは大きな間違いだ。
たとえば、SNSが誕生してからまだ数千日程度しか経っていない。SNSの利用が私たちの生活やマインドにどんな影響を及ぼすかを検証するには、数世代規模の検証が必要だ。どんな技術でも徹底的に使うことでしか、(自主的な)規制を促すことはできない。使う前から「メリットがなければ使わない」と決めつけるのは間違いだ。メリットやデメリットは使わないとわからないし、使ってみることでそのメリットを最大化し、デメリットを最小化できる。
今のところグーグルが抜きん出ている
――本にはグーグルがまだ小さな検索会社だった頃、創業者のラリー・ペイジ氏が「僕らが本当に作っているのはAIだ」と発言したことにケヴィンさんが驚いた、というエピソードが出てきます。今でもAIではグーグルがリードしていますか。
そう思う。最近もグーグルが「ディープマインド」のAI技術を使ってデーターセンターのエネルギー消費量を40%も削減したというニュースが出ていたが、彼らはすでに自社事業の効率化を進めるためにAIを活用している。サーバーのエネルギー消費量は膨大なので、40%も減らしたというのはものすごいことだ。そういう意味では、グーグルは抜きん出ている。
それから、中国の百度(バイドゥ)とアマゾンも頑張っている。アマゾンは商品を薦める機能にAIを使っているが、将来的にはほとんどのAIは私たちが気がつかないところで活用されるだろう。個人では「Siri」のようにこちらが話したことに答える「会話型」のAIの活用が増えるだろうが、家庭やオフィス、工場などでは電力と同じ要領でAIが使われるようになるはずだ。
――グーグルの場合は、ほかの企業より膨大なデータを持っているということも強みですよね。
現在のAIは機械学習の手法を用いており、機能向上にはより多くのトレーニングを積まないといけない。かつては数千例程度の学習で十分だと思われていたが、最近では数百万例ぐらいないとダメだということがわかってきた。そういう意味で、グーグル、アマゾン、マイクロソフト、百度といった企業にはメリットがある。ちなみに、幼児が犬と猫との違いを認識するのに必要なのはわずか12例のみだ。人間並みとは言わないが、そうとう少ないサンプル数でAIを学習させるような技術が出てくれば、それはまさに破壊的技術になるだろう。そういう技術が出てくれば、グーグルもアマゾンも吹っ飛ぶ。