「白川総裁は誠実だったが、国民を苦しめた」

浜田宏一 イェール大学名誉教授独占インタビュー

インフレを止められるか、という心配はある

――物価は上がっても賃金が増えず、実質所得が低下するという懸念もあります。

私はそうした通説とは逆の考えを持っている。金融政策が効くのは、賃金が動きにくいという硬直的な側面があるからだ。公共経済学の著書があるオックスフォード大学のアトキンソン教授に聞くと、金融政策が効くことと所得政策ができるのは同じことだと話していた。リフレ政策を通じて、物価上昇で実質賃金が低下し、企業収益が増えることで雇用拡大の余地が生まれる。

今まで失業していた人が新たに収入を得られるわけだから、実質賃金の低下で多く雇えるというプラスの効果がある。今働いている人がわずかずつ犠牲を払って、全体のパイが増える。ワークシェアのアイデアと同じだ。その後、雇用が増えて生産が盛んになれば、実質所得も上がっていく。

――経済全体が活性化するには時間がかかりますか。

そうは思わない。株式や為替市場は、秒の市場で効いているわけだから。現にアベノミクスが効いている。ただ、フローの所得や消費の伸びは緩やかな動きになり、モノとサービスの価格や量に影響が及ぶのは、時間がかかる。

今まで物価が動かなかったのだから、金融緩和でデフレ脱却は難しいというのが日銀の理屈だ。私はそうしたことは心配していない。物価が反応しなかったのは、日銀が嫌々ながらやってきたからだ。むしろ、心配しているのは、金融緩和が効き、その後、インフレが起きたときに、ちゃんと止められるかということ。

金融緩和が効くということは、副作用としてわずかながらインフレ的な状況になることでもある。デフレを解消し、インフレ的にならないというルートはあまりない。過度なインフレになりかかったときに、うまく止められるのかという心配は、理論的にはある。

――政府が財政規律を保つことや金融政策が財政ファイナンスと見られてはいけないと白川総裁はかねて強調しています。

財政が悪化していくとインフレになるモデルは、政府がおカネを刷らざるをえなくなるからだ。日本の財政は悪いが、日銀の抵抗でインフレにはなっていない。結果的にはその抵抗が強すぎるので、デフレが続いて国民が苦しんでいる。財政規律が失われると背景としてインフレの火種となりうるが、デフレのうちは国債を日銀が買い取れば誰も損せずに財政負担も軽減できる。日本国債の金利は1%。国民やマーケットがインフレをまだ心配しないでいいと思っている証拠だろう。

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