フェラーリの限定車が発表前に完売した理由 「ラ・フェラーリ」のオープンを買うのは誰だ

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「これこそラグジュアリービジネスだ」と、ラ・フェラーリのオープンモデルの完売を告げるプレスリリースはそう眺めたが、日本の自動車メーカーなら、このような販売手法や情報発信はまず難しいだろうと感じた。それが、日本車で唯一、高級車ブランドとしての地位を確立したトヨタ自動車の「レクサス」であっても、だ。

日本市場でこのような販売手法は難しい

日本の市場においては、たとえ普通の人が買うことのできないような高価なモノであっても、購入に対する機会の公平さを謳わないユーザーからのクレームの対象となりうる。特に幅広いウォッチャーが存在する自動車市場においては、特にそうだ。「なんだ、このプレスリリースは! 金持ちにこっそりと案内して。それが完売したという情報を流すとはけしからん。買いたいと思っていた私はどうなる……」と、そのクルマを買う気などさらさらない層からの声も大きく聞こえてくることになるから、メーカーも対応が難しい。

そもそも日本車には、従来のレンジと比較して優れた存在である「プレミアムカー」はあっても、ブランドの力で絶対的な価値を主張する「ラグジュアリーカー」は存在しない。徐々にステップアップしてくる顧客をターゲットにしたマーケティングが主流だ。拙著『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』でも触れたラグジュアリー・ブランディングの三要素、「独自性と持続性」「希少性」「伝説」――を築き上げるには、ブレない戦略とそれなりの時間がかかる。

『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ~伝説を生み出すブランディング』(KADOKAWA)。上の画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

このようにラグジュアリーマーケットを狙うスーパーカーメーカーは、普通の自動車メーカーとは違う「不平等」なマーケティングをどんどん突き進めている。こういったジャンルのクルマは広く宣伝して、いくら大量のセールスマンを投入したからといって売れるものではないし、多く売ることだけが正義ではない。

本当に欲しいと思われる顧客に対して「あなただけのためにこのクルマを作りました」と的確に届けることこそが重要なのだ。なんだかんだいって、スーパーカー市場におけるフェラーリの独走態勢はなかなか崩れそうにもない。

越湖 信一 PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表

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えっこ しんいち / Shinichi Ekko

イタリアのモデナ、トリノにおいて幅広い人脈を持つカー・ヒストリアン。前職であるレコード会社ディレクター時代には、世界各国のエンターテインメントビジネスにかかわりながら、ジャーナリスト、マセラティ・クラブ・オブ・ジャパン代表として自動車業界にかかわる。現在はビジネスコンサルタントおよびジャーナリスト活動の母体としてEKKO PROJECTを主宰。クラシックカー鑑定のオーソリティであるイタリアヒストリカセクレタ社の日本窓口も務める。著書に『Maserati Complete Guide』『Giorgetto Giugiaro 世紀のカーデザイナー』『フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング』などがある。

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