佐藤優の教育論「行かせるなら公立?私立?」 『子どもの教養の育て方』特別編(その2)
佐藤:ただし、教員の教え方のうまさというのは、学力や頭のよい悪いと比例するわけでは決してありません。
たとえば、東大や京大の教育学部は、教育学、教育についての研究をしているところで、どういうふうに教えるかという研究はあまりしていない。
これに対して、教え方の研究をしている大学、たとえば東京学芸大学を出ている先生は優秀なんです。それから、埼玉大学の教育学部といった、教員養成課程のある教育学部ですね。これらの大学では、教科教育法のところを本気でやっています。
たとえば英語でも、TOEFLで110点以上(満点は120点)というようなものすごく英語ができる人よりは、英語力では実は英検の準1級くらいの力しかなくて、外交官試験を受けたらたぶん受からないだろうというような人でも、すごく熱心な人が中学校や高校の先生をやってくれたほうがいいわけなんです。
しかし、そういうところが今の公立の学校ではなかなか手が行き届かない。
もう1つ問題なのは、少子化の影響で教員になるのがものすごく難しいことです。社会科だったら、正規採用が数人から十数人という県も多い。そういう狭き門になっています。
そうすると、正規の採用はされないで、1年更新の講師になる先生が出てきます。そういう先生は、ずっと講師のままでいいという人を除けば、来年の自分の採用試験の準備と、生徒の教育の両方をやらなければいけません。つまり、試験勉強に忙しい状況で、どこまで教育ができるかという問題があります。
また、自分の持っている免許と違う科目を相当程度、教えているという問題もあります。そうすると、中学校くらいでも本当にきちんと教えられるのかということです。これは深刻な問題で、高校になれば、確実に大学で専攻して教科教育法の単位を取っていないかぎり教えられません。
そういう構造的な問題があって、だいたい中堅レベルより以下の学校だと、そういう人たちが先生として来ることがあるわけです。
一方で、偏差値の高い学校とか、公立でも昔からあるような名門高校では、教師は10年とか15年とか長くいるんです。あるいは、数年出ていったらまたそこに戻ってきます。そういう学校との教育環境の差が、実は大きいのです。