「息子にも説明できない所得格差の根深さ」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ

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今、世の中には天文学的な大きさの所得格差が存在する。私は11歳になる息子のガブリエルに、その格差について説明する必要があると考えている。
 
 私の息子は数年前、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツを知った。オランダ政府主催の会議の席で、私が彼の前座役を務めたからだ。それ以降、ガブリエルは、「自分もゲイツのようになれば、600億ドルもの富を得られる」と興奮している。
 
 私が息子に、「美術館に飾られた絵画のように、世の中にはおカネ以上に価値あるものもある」と話しても、彼はいつも、「でもビル・ゲイツは、その絵を買うことができるでしょ」と答える。確かにそのとおりだ。ゲイツは絵画どころか、美術館さえ買い取ることができる。しかしゲイツは、買い取った美術館をひととおり観て回ったら、おそらく一般に公開するだろう。だからゲイツにとって、美術館を買うことに意味はない。そう説明しても、息子はなかなか納得してくれない。

 息子は大人になったら、プロのバスケットボール選手になるのが夢だ。だが、もし選手になれなかったら、おカネを出してチームを買い取ろうと決めているようだ。私が息子に、「NBAに所属しているチームを買い取るには、3億ドルから5億ドルがかかるぞ」と言っても、彼は「でもゲイツなら買い取ることができるでしょ。リーグ全体だって買い取ることができるでしょ」と返してくる。

 美術館の絵画やバスケットボールのチームを簡単に買うことができるのは、何もビル・ゲイツだけではない。『フォーブス』誌に掲載された「アメリカの長者番付」によると、マイケル・ブルームバーグ・ニューヨーク市長を含む高額所得者の上位9名は、昨年1年間で50億ドルから90億ドルもの資産を増やしたという。この9名の収入を合計すると550億ドルにも達する。この額は100カ国以上もの国の国民所得を上回っているのである。

 こうした天文学的な金額を理解させるために、私は息子に「アメリカで最も豊かな9名になるためには、寝食の時間を含めて、1秒当たり少なくとも150ドルは稼がなければならない」と話した。その額を稼ぐということは、1分当たり9000ドル、1時間当たり54万ドル稼ぐということだ。

 今や、このような高額所得者と、世界中にいる貧困層との格差は顕著である。仮に、先に述べた高額所得者9名が、所得を全額貧困層の人々に寄付したとすれば、100万人の貧しい人々を3カ月間養うことができる。もちろんゲイツや投資家ウォーレン・バフェットといった高額所得者は、既に何百億ドルもの資金を寄付している。息子も、ゲイツやバフェットに限らず、世界中の資産家が、恵まれない人に寄付している事実を知っている。

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