嘘だらけ「マイナス金利報道」のここがヘン 実は、財政再建は完了へと向かっている

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新規に購入する国債については、利率(クーポン)が低下しているため、たしかにその分の運用利回りは低下する。しかし、130兆円にのぼるGPIFのポートフォリオには、すでに3分の1以上の国内債券が組み入れられており、その利率は変わらない。

債券価格は値上がりしているため、債券部分の値上がり益(キャピタルゲイン)を加味した運用利回りは、上昇しているだろう。

また、そもそも、年金の仕組みを理解していない説明もある。

年金の運営方法は2つに大別される。積立方式と賦課(ふか)方式だ。積立方式は、年金加入者にあらかじめ資金を拠出させ、それを運用して、将来の年金給付にあてる。私的年金で用いられている。

一方、賦課方式は、現役世代の保険料が原資となっており、年金のスタート時から給付がある。公的年金だけの仕組みで、世界の公的年金の標準となっている。

そして、公表されている日本の公的年金のバランスシートから試算すると、負債額は1660億円で、そのうちの9割以上は、将来の保険料収入と国庫負担によって賄われる。GPIFの資産運用によって賄われるのは、そのうちのわずか8%程度だ。つまり、年金財政からみれば、GPIFの運用はあまり意味がない、ということになる。

つまり、「マイナス金利で年金が破たんする」というのは大ウソなのである。

「インフレ目標達成後、ハイパーインフレになる」のウソ

日銀のマイナス金利政策は量的金融緩和を補強する狙いがある。そして、量的金融緩和は、「年率2%程度」というインフレ目標を達成するための手段として用いられている。

そこで、マイナス金利を量的金融緩和の“行き過ぎ”ととらえ、これを続けていくと、日本は年率2%どころかハイパーインフレになる、というわけである。

まず、指摘しておきたいのは「ハイパーインフレ」についての誤解だ。ハイパーインフレとは、標準的な定義では年率1万3000%以上のインフレを指す。国としては壊滅的な状況で現れる、極端な現象だ。この10年ほどの間では、インフレ目標を採用している国でハイパーインフレになった国はひとつも存在しない。したがって、「インフレ目標が達成された後はハイパーインフレになる」という論は、実証的に否定することができる。

また、ハイパーインフレを“コントロールできないインフレ”という意味に解すと、おそらく、こうした懸念を表明する人は、次のような考えだと推測される。

インフレ目標のような、物価を上昇させるような金融政策を続けていくと、いざ目標が達成されたとき、今度はインフレを抑え込むことができなくなり、どんどん物価は上がって行き、国民の生活は苦しくなる――。

このウソに対しては、インフレ目標は物価の安定を目指した政策であることを強調しておきたい。

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