嘘だらけ「マイナス金利報道」のここがヘン 実は、財政再建は完了へと向かっている

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それを踏まえた上で、仮に、現在日銀がインフレ目標としている2%のプラスマイナス1%の上限である3%に、消費者物価総合指数が近づいてくる、あるいは、恒常的に超えるような状況が予想されるときは、どうすればよいのか? 答えは明白である。日銀は金融引締政策に転換すればいいだけの話だ。

1976年にノーベル経済学賞を受賞した、故ミルトン・フリードマン教授の名言である、「インフレはいつでもどこでも貨幣的現象だ」を持ち出すまでもなく、インフレもデフレも貨幣的現象であり、金融政策で十分コントロールはできる。

実際には、「物価の先物」といえる物価連動国債から得られる、予想インフレ率に関する情報などを活用すれば、インフレ率が高まる可能性をより早く察知でき、一歩も二歩も先を読んだ金融政策を行なうことができるだろう。

「日銀の国債保有で財政は破綻する」のウソ

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日銀の量的金融緩和の柱は国債の買い入れである。実際、日銀のバランスシートを見ると、2013年度末から 15年12月22日までに、国債が130兆円増えている。日銀の量的金融緩和による国債買いオペによって、積み上がった分といえる。

一部の専門家と称する学者やエコノミストは、この買いオペは、いわゆる日銀の「国債引き受け」とほぼ同じで、マーケットがそう判断すれば、日銀や政府の信認が崩壊し、国債や円が売られ、ひいては財政が破綻するというわけである。

この指摘もウソだ。日銀による買いオペが、新規国債発行額を上回っているということは、その分が実質的に政府支出の財源となっているからだ。事実上の財政ファイナンスと言えるだろう。

しかし、日銀および政府の信認が失われ、国債が売られるどころか、現実は、国債の価格は上昇している(=国債の価値が高まっている)。なぜ、事実上の財政ファイナンスが行なわれているにもかかわらず、国債が売られないのか。それは、国債が品不足であることに加え、デフレ下の財政ファイナンスには、リスクがないからだ。

財政ファイナンスの代償はインフレ率の上昇だ。インフレ時に行なえば、さらなるインフレを招いてしまう。一方、デフレ時であれば、リスクがないことに加え、以下のように、政府の債務を実質的に減らす効果がある。

日銀の買いオペで積み上がった国債を、政府と日銀の連結バランスシートで見ると、資産側は変化なし、負債側は国債減、日銀券(当座預金を含む)増となる。この負債構成の変化は、有利子の国債から無利子の日銀券への転換だ。

政府からの日銀への国債の利払いは、国庫納付金となり、ただちに政府に還流する。つまり、政府にとって、日銀保有分の国債は債務でないのも同然となるのだ。これで、連結ベースの国債額は減少することになる。その結果、政府のネットベースの国債は、直近で150~200兆円程度まで減少していると推定できる。

したがって、年間80兆円という日銀の買いオペを続けると、近い将来、ネット国債はゼロに近くなる。しかも、市中に出回っている国債は少なく、資産の裏付けのあるものばかりになるので、実質的に債務が解消に向かい、ある意味で財政再建が完了したと言える状態になるのだ。はやければ、2016年から17年にかけて、そうした状態になる可能性がある。

となれば、消費税の10%への引き上げはまったく必要がなくなる。こうした国民生活にとって本当に大事なことが広く伝わらないまま、マイナス金利批判に代表されるウソばかりが蔓延しているのだ。これは官僚の思うツボだろう。ウソを平気で流し続ける専門家やマスコミにだまされてはいけない。

高橋 洋一 政策工房会長/嘉悦大学教授

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たかはし よういち / Yoichi Takahashi

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省(現・財務省)入省。プリンストン大学客員研究員時代、のちにFRB議長となるベン・バーナンキ教授の薫陶を受ける。内閣府参事(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官、内閣参事官(総理補佐官補)などを歴任。2007年に財務省が隠す国民の富「霞が関埋蔵金」を公表し、一躍、脚光を浴びる。2008年、退官。現在、大学で教鞭をとる

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