トヨタが一途に社員へ叩きこむ「思考の本質」

専門知識を持っているだけでは役に立たない

たとえば企業戦略を考えるときに、「鳥の目」の視点では、世界の経済や人口動態などの動向を考え、次に業界や競争相手の動向を考えるだろう。そこで戦略の糸口が見つかれば、次にそれを実行する場合の問題点を発見するために、「虫の目」の視点で、実際に戦略を実行した場合に考えられる障害や副作用とその対策を考える。次に「鳥の目」の視点に戻り、具体的な対策のマクロレベルのインパクトを考える。

こうして、自在に視点を変えて大局的視点と局所的視点を行ったり来たりすることによって、「実行可能かつ有効な戦略」を考え出すことができる。

ここで重要なのは、ズームアウト思考で発想を広げ、ズームイン思考で具体的な障害や副作用などのマイナス面を発見することを「繰り返しできる」点だ。ズームアウト思考だけでは、「アイデアはいいけど、やってみたらうまくいかなかった」という机上の空論が生まれやすい。しかし、ズームイン思考だけでは、「実行可能だが、現状の延長線上の戦略」しか出てこない。

人間の脳は細かいことに飛びつくクセがあるので、このズームイン・ズームアウト思考が自然にできる人は極めて少なく、それができる人たちが、本当に「頭のいい人」と言われる。しかし、ズームイン・ズームアウト思考は、普通の人でも訓練の方法を工夫すれば高めることができる。トヨタではこれを全社員に叩きこむように教育しているから、全員の思考力が高まるのだ。

このように、トヨタの好業績の秘密は、「頭のいい人を多く雇っている」というよりは、「雇った社員全員に深く考えさせる訓練を続ける」ことで深い思考に慣れさせ、思考能力をレベルアップさせていることにある。

世の中には、トヨタより多くの、いわゆる「頭のいい人(有名大学卒業生)」を雇いながら、業績がさえない大企業が多く存在する。そうした企業は、せっかく雇った人のポテンシャルを生かせていないのだ。これに対してトヨタは、A3報告書をはじめとした思考訓練によって、本質的な意味で「頭のいい人」でないと自然にはできない「ズームイン・ズームアウト思考」を、普通の人でもできるように育てていると言える。

高度な思考は、何が「高度」なのか?

私たちは「高度な思考」とは、難しい専門的な知識を多く使うものと思い込んでいるが、専門的な思考と高度な思考は別物だ。多くの専門的なことを知っていても、それらの間の「つながり」が少なければ、浅い理解でしかない。浅い理解しか使わない業務は、専門知識を必要としていても、どんどん自動化されていくだろう。ロボットや自動化がブルーカラーの仕事を奪っていくように、AIがホワイトカラーの仕事を奪う時代になりつつある。

次ページ「高度な思考」はさまざまな要素が入り交じる
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