トヨタが一途に社員へ叩きこむ「思考の本質」 専門知識を持っているだけでは役に立たない

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「ドクター・ハウス」という、天才医師を主人公にしたアメリカのテレビドラマがあった。主人公のハウス医師は、部下より多くの専門知識を持っているわけではないのに、診断が非常に難しい病状を的確に見抜いていく。

その理由は、部下の医師は「Aという症状なら原因はBとC」といった、医学部で勉強した専門知識を単純に適用することしかできないのに、ハウス医師はそうした表層的な因果関係だけでなく、「患者がウソをついている」とか「この検査の結果が間違っている」といった、普通の医師なら考えつかない可能性まで因果関係の連鎖に入れて発想できるからである。

「ドクター・ハウス」はあくまでフィクションだが、熟練した専門家は、単に多くの知識を記憶しているだけでなく、長い経験を通じて「高度な思考が自然にできるクセ」を身に付けている。囲碁などのようにルールや要素が限定された状況では、コンピュータが人間を上回っても、こうしたさまざまな要素が入り交じる高度な思考は、コンピュータに置き換えるのがまだまだ難しい。今後は、高度な思考こそが、最大のサバイバルツールになると言える。

ヒトの脳は、深く考えるのが苦手!?

ヒトという生物は、数十万年前にアフリカで生まれたと言われる。しかし、サバンナで生活していたこの時代からは、進化するだけの時間的余裕があまりなかったため、その脳もこの時代から変わっていない。いわば数十万年もアップデートされていない状態だ。

サバンナでは、ヒトはライオンなどの猛獣に襲われる危険に絶えずさらされており、危険な兆候がちょっとでもあれば「反射的・直感的に反応する」ほうが、当然ながら生存確率は高くなる。むしろ「深く考えて反応する」個体のほうが生き残るうえでは不利になる。そのため、複雑な社会やシステムに囲まれた現代でも、サバンナで生活していた時代と同様に、「深く考えずに、直感で行動してしまうクセ」が抜けていないのだ。

たとえばヒトは、難しい問題に直面すると、じっくりとその真因を考えるより、頭に最初に浮かんだ解決策がすばらしい案だと思い込み、「結論ありき」でその実行に邁進してしまうことが実験からわかっている。また脳には、自分の信じていることに合致している情報を強調し、反している情報は無視したり軽視したりする、「確証バイアス」という認知上のクセがある。つまり「見たいものしか見えない」わけだ。

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