英国とEU、「終わりの始まり」はどっちなのか 「離脱ドミノ」が即座に始まることはない

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正式な離脱手続きは、英国政府がEUに離脱の意思を伝えた段階で始まる。EU側は英国に対し早急な意思表示を求めているが、残留キャンペーンを率いて敗北し、辞意表明をしたキャメロン首相が離脱手続きを主導することは考え難い。新首相の就任後、離脱協議の方針などを固めたうえで、EU側に離脱の意思を伝えることになろう。離脱手続きが開始された後、それを撤回することは原則としてできない。ただ、この辺りは状況に応じて柔軟な対応をしてくるのが欧州流と考えてよい。

離脱後のEU関係協議の争点は、①対EU貿易での関税や非関税障壁、②単一市場へのアクセス、③国境管理、④EU予算への拠出の有無などが考えられる。離脱派の間で必ずしも見解が一致している訳ではないが、一般的な主張に基づけば、①これまで同様に関税なし・非関税障壁なしのEU貿易、②金融業などの単一免許ルールの適用継続、③独自の移民政策の採用、④EU予算への拠出回避を要求することになる。

こうした離脱派の要望が全て聞き入れられることはない。①や②の経済的なダメージを最小限に食い止めようとするならば、多くの国民が離脱票を投じた理由の③や④を多少なりとも諦めなくてはならない。その場合、離脱協議を指揮する新政権に対する不満が高まり、英国内で政治リスクが噴出しよう。他方、英国民のEUに対する不満を解消すべく、③や④を優先する場合、経済的なダメージは避けられない。現実の妥協案はこうした二者択一では恐らくなく、国益確保と政治安定のバランスをとることになろう。

英国分裂のリスク高まる

離脱投票を受け、残留支持が多数派のスコットランドでは、英国からの独立の是非を問う住民投票の再実施を求める声が高まっている。また、同じく残留支持が多数派の北アイルランドでも、英国から独立してアイルランドとの統一を目指そうとする動きがある。ロンドンやリバプールなど残留支持の都市部では、英国からの独立とEU残留を求める署名運動が広がりを見せている。

英国分裂のリスクが高まっているが、英国議会が関連法案を可決しない限り、各地の独立運動が法的拘束力を持つことはなく、すぐさま英国分裂が現実味を帯びるわけではない。2014年の住民投票の当時、スコットランドの独立派は、北海油田の原油収入とエジンバラの金融業などで経済的に自立することが可能と主張していたが、当時と比べて原油価格が大幅に下落した現在、その現実味はやや色褪せている。

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