NOLS訓練は現在、NASAのすべての宇宙飛行士に必須の訓練だ。若田は特にこの訓練の重要性を認識し、自分の息子にも参加させたいとも語っている。2001年に夏山登山に参加したときは訓練直前に40度近い発熱を経験しながら自己管理し、仲間に助けられ登頂を果たした。
苛酷だったのが2006年の冬山登山だ。気温マイナス数十度、積雪約150cmの雪山でクロスカントリースキーをはき荷物を載せたそりを引き、重いリュックを背負って急傾斜を登る。宿泊用雪シェルターも自力で約5時間かけて作る。気力、体力は極限に近い。
しかも若田がリーダーとなった日の移動中、視界が遮られるほどの雪嵐がおこり、気温が低下。メンバーに凍傷の危機が迫った。「これ以上、進むべきでない」という意見が出る。出発から約1時間が経過し、引き返せば、翌日はさらに移動距離が増える。
「引き返すか否か」――。メンバーの意見は割れた。だが議論に時間はかけられない。若田氏は手短に皆の意見を募った結果、引き返すことを決断。足に怪我を負ったメンバーがいたからだ。宇宙で何よりも最優先されるのは「安全」、次に「ミッション達成」が来る。
どんな極限状況にあっても優先順位を間違えないこと、ぶれないことの重要性は、頭ではわかっていても実践できるとは限らない。だからあえて厳しい環境で身をもって学ばせる。
追い込まれたリーダーが正しい判断を下せるか。そしてチーム全員に納得させることができるか。これらが重要なのは、ビジネスパーソンのチームにとっても同じだろう。
日本人が今後、世界に活動の場を広げ、多国籍チームでリーダーシップをとる場合、どのような意思決定のプロセスを取れば、チームをうまく運営できるか。宇宙飛行士のリーダーシップ訓練は、その重要性を教えてくれるのだ。(=敬称略=)
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