新人宇宙飛行士の中でも、世界でリーダーシップを発揮できる人物としてもっとも期待されるのが油井亀美也だ。航空自衛隊でF15戦闘機のチームリーダーを務め、自衛隊の中でも非常に厳しいと言われるテストパイロットを経て宇宙飛行士になった男だ。
選抜試験からそのリーダーシップは際立っていた。NASA宇宙飛行士訓練時代のあだ名は「シャーク(鮫)」。キツイ道と楽な道があったら、キツイ道を選んで自分を常に高める努力を怠らない。2015年に国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在することが決まっている。
油井は2012年9月、NASAが宇宙飛行士にリーダーシップやチームワーク、状況判断を体得させるために課す野外リーダーシップ(National Outdoor Leadership School;NOLS)訓練に参加した。
これまで自衛隊でも苛酷な訓練を体験してきた油井が「リーダーとして大変な状況だった」と吐露する場面に遭遇した。その詳細を聞いた。
過酷なサバイバル訓練の、真の目的
NOLS訓練は、冬山や海などストレスのかかる環境で行われる。重い荷物を自ら背負い雪崩や遭難の危機が迫る中、毎日リーダーを交替しながら、目的地に移動する。単にサバイバルすることだけが目的ではない。「自分を知り、相手を知り、状況を把握する」のが目的だ。
心身共に苛酷な状況の中に24時間さらされると、オフィスや通常の訓練では見えない「本当の自分」が見えてくる。何にストレスを感じ、どう行動するのか。そして同僚の長所、短所は何か。その根底にあるのは「完全無欠な人間などいない」という考え方だ。
人間には長所短所があって当たり前。だが宇宙飛行士は短所をさらけ出すのが苦手でもある。チームワークを構築するには、早い段階でお互いの弱みも強みもさらけ出し、長所を伸ばし短所を補ったほうがいい。
そしてNOLS訓練のもう1つの大きな目的は「状況判断と意思決定」だ。状況を正確に読み、これから起こりえる事態を予測し、「Go or No Go」つまり「行くか退くか」の判断力を鍛える。しかもその判断はチームで行わなければならない。自分がリーダーになった日、チームがどんな状態にあるかは予測不可能。奇しくも油井がリーダーとなった日は、もっとも難しい判断を迫られる日だった。
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