「保育園辞めた」でわかる、保育士の過酷 給与を上げるだけで人手不足は解決しない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

保育士の待遇改善に向けて、保育園を運営する企業も動き出している。最大手の「日本保育サービス」を有するJPホールディングスは、政府の方針に先駆けて、前期に8%、今期に4%の賃上げを実施。今期は1%強のベースアップに加え、残業代の支払いを手厚くする。

現場ではタブレットを導入。これまで手作業で行っていた子どもの検温、呼吸確認などの記録を電子化し、本部でも安全面のチェックを分担して行えるようにする。「人手不足によって現場の負荷が高まっている」(荻田和宏社長)との認識があるからだ。

最大手JPホールディングスは4%の賃上げやタブレット活用などで待遇改善に努める(写真は荻田和宏社長、2015年7月。撮影:尾形文繁)

さらには今期から、保育を専攻する学生を対象に、返済不要の奨学金(月額5万円、2年間)を給付する。現状、この奨学金を利用している学生は4人だが、「いずれ50~100人規模に拡大する」(同)。入社を強制するものではないが、少しでも同社への魅力を高める狙いだ。毎年200~250人にのぼる新卒採用者に対しては、首都圏に配属される場合は10万円、地方の場合は3万円の支度金を、それぞれ入社時に支払う。

こうした人件費とシステム費用の増加によって、JPホールディングスは今期、11期ぶりの減益となる。それでも、保育士の離職が多い状況が続けば、今後の拡大にとって足かせとなるうえ、求人費などの追加的な費用も発生する。経営を左右しかねない保育士の確保に、あえて先手を打った格好だ。

退職の理由には人間関係も

とはいえ、保育士の退職理由は、給与や業務負担だけではない。東京都の調査(2014年)によれば、保育の方針をめぐって園長や保護者との人間関係に悩み、退職に至る人も少なくない。

東京都の「保育士実態調査」(2014年3月)では、退職意向を示した保育士のうち、その理由(複数回答)として、「給料が安い」(65.1%)「仕事量が多い」(52.2%)を挙げる人が多い。ただ、職場の人間関係(24.9%)、職業適性に対する不安(22.0%)、保護者対応などの心労(17.9%)を挙げる人も、一定数存在する。「園長や同僚の保育士、保護者との人間関係がうまくいかない人や、園児との信頼関係が築けず、『保育士に向いていない』と悩む人も少なくない」と、冒頭の保育士は打ち明ける。

「サクセスアカデミー」を展開するサクセスホールディングス(HD)は、前期から今期にかけて保育士の給与引き上げを進めているが、今期は特に給与面以外での保育士へのサポートに力を入れる。園長を経験したスーパーバイザーが10園に対して1人つき、保育士の心のケアを行う。どうしても閉鎖的になりがちな、保育園の勤務環境に風穴を開けるためだ。

人間関係の悩みから、退職を考える保育士がいた場合、グループ内の別の保育所への配置転換を促し、完全退職を防ぐ。「認可保育園のほかに病院内の保育園、企業内保育園など、いろいろな形態の保育園を展開しており、保育士の希望に沿った配置転換が比較的しやすい(サクセスHDの我堂佳世取締役)。

次ページ運営の9割以上は社会福祉法人など
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事