アトキンソン氏「スポーツ産業の課題」を語る 日本のスポーツは観光並みに伸び代だらけだ

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しかし、ヨーロッパは違います。斜面を滑降するいわゆるアルペンスキーは、スイスを訪れたイギリス人のために生まれたスポーツと言われています。スイス人のためのスポーツではなく、外国人のためにできました。だから、長期滞在のホテルが作られ、バーや劇場など夜の楽しみも用意されました。

ニセコが徐々にヨーロッパのスキーリゾートのように変わってきていることからもわかるように、日本のスキーが産業としてさらに成長していくには、このような長期滞在型のスキーリゾートというニーズに応えていくことが必要不可欠です。

「日本人のためのスキー」だけでは、経営難でスキー場自体が減ってしまいます。長い目で見れば、日本のスキーの愛好家にとっても、外国人の視点を受け入れることが重要なのです。

「安売り」を止めれば活路が見える

「現在のままのスキー場でも、中国人の団体客などが押しかけているじゃないか」という意見もあるかもしれません。近隣諸国のニーズは自国民とよく似ているからですが、それでは産業は潜在能力のすべてを発揮できません。

日本の観光は、観光客をできるだけ多く招くため、「安売り」に特化しすぎています。

たとえば、『国宝消滅』を執筆する際に代表的な文化財拝観料の平均を調べたのですが、日本では593円なのに対し、海外では日本円で1891円でした。日本は物価が高いとよくいわれますが、実は観光客には安い価格設定しかないのです。日本には「松竹梅」という言葉があるのに、なぜか拝観料はみな平等。しかも非常に安いのです。

自国民は安くして、外国人向けに通訳ガイド付きコースや音声ガイドコースなどの「松竹梅」をつくってもいいのに、なぜ差をつけないのか、不思議でしょうがありません。新幹線は自由席、指定席、グリーン席のように「松竹梅」になっているにもかかわらず、です。

観光もスポーツも、整備していないからいまいち盛り上がっていないのか、あるいは日本人が仕事を休まないから整備されてこなかったのか、これまでの経緯はわかりません。しかし、ひとつだけはっきり言えるのは、今のままでは観光もスポーツも「成長産業」にはなれない、ということです。

それは裏を返せば、やるべきことさえやれば、アメリカのスポーツ産業のように確実に「成長」していくということです。整備をして、日本の観光資源・スポーツ観戦の楽しみの幅を拡げていけば、日本経済が良くなるだけでなく、日本人の休みの満足度も上がるという、まさに「一石二鳥」の効果が期待できます。

観光とスポーツを「産業化」できるかどうかは、「やるかやらないか」、それだけなのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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