米国が導入狙う金融取引税は万能薬ではない 大統領選で過大評価されている面も

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しかし残念ながら、この理屈は実際には通用していない。2008年の金融危機についても、FTTがあれば防げたとの見方もあるが、それは間違いである。危機防止に何より重要なのは金融市場の規制なのだ。

だが、2010年成立の米金融規制改革法(ドッド・フランク法)は条文が数千ページに及び図体は大きいが本質的には不完全で、ほんの一時しのぎにしかなっていない。これが長期的な解決策になると考える専門家はほとんどいないのだ。

FTTが持つ根源的な問題点は、金融システムを歪めてしまうことだ。FTTによって株式売買の動きが鈍れば、株価下落、企業の資金調達の難航、労働生産性や賃金の低下などにつながりかねない。もちろんFTTだけではない。どんな課税をしても市場は歪められる。

FTTは大きな戦略の一部

英国にならってFTTの課税対象を絞り込めば、害は少なくなるだろうが、税収も多くを望めない。このためサンダース氏の案では、本来は除外されている金融派生商品も課税対象に含めた。

しかし、金融派生商品は仕組みが複雑なため、どの部分に課税するか正確に定めるのは難しい。それに、課税が実体経済に与える最終的な影響を事前に見極めることはますます困難になる。

それでも政府は、どうにかして税金を集めなければならない。だからこそ米国に必要なのは広範な税制改革だ。理想的なのは消費税に累進制を導入することである。必要な税制改革や金融市場改革に比べれば、FTTの制度設計など、大きな戦略の一部分にすぎない話といえる。

週刊東洋経済6月18日号

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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