「何でもあります」では地方に客は絶対来ない 超細分化する旅行ニーズに追いつけるか
永井:それにしても、誰がその町おこしを率いるのかという問題がありそうです。トップダウンも難しそうですね。
「何でもあります」は、「何もない」と同じ
山下:大きな枠組みで、観光協会会長や商工会議所会頭、市長・町長のトップダウンで大掛かりに進めてうまく行くのは、確かに理想かもしれません。しかし現実にはなかなかそうなりません。今の時代、消費者の目も非常に肥えています。地域やわれわれ旅行会社の思惑に合わせて消費者を動かすのは、とても難しいですね。だから、特定の誰かのために、ピンポイントで作られた仕掛けからスタートせざるをえないんじゃないかと思います。
永井:消費者ニーズが細分化・多様化する中、小さくても可能性があるニーズに、小さいチームで対応して、芽が出たものを大きく育てていく方法がよいということですね。
山下:たとえば山形県鶴岡市に、クラゲ展示数でギネスブックに載っているクラゲ専門の加茂水族館があります。ここは1997年に経営が厳しくなって閉館の危機に直面して、自治体にも見放されて行政支援ももらえなくなった時期がありました。そこで「水族館の存続をどうするか」という議論になりました。館長が「クラゲを徹底追求した水族館にする」と言い出したところ、周囲の人々からはかなりの反対があったと聞きました。しかし今は、世界一のクラゲの水槽に、発光するクラゲが泳いでいたり、クラゲがLEDでライトアップされたりして、幻想的なすばらしい水族館になっています。今は子供からお年寄りまで、ものすごく来場客が増えています。
永井:あ、それは映画「海月姫(くらげひめ)」にも出ていた、あの水族館ですね。
山下:地方が「ウチはなんでもあります!」と言っても、観光客から見ると「別にそこじゃなくてもいい」という話になりますよね。「コレはここにしかないんです」というところまで絞ることが必要なんですよね。地方では「私のところにはコレしかないんです」というところまで絞れば絞るほど、全国の人に響きます。実際、地方に行くと「ウチの街はいろいろありすぎるのが課題なのです」という話をよく聞きます。「いろいろあって課題」ということは、「何が一番優れているか見えてない」ってことですからね。
永井:「何でもあります」というのは、「何もいいものはありません」ということですね。
山下:そういうことですね。何に絞るかはすごく難しいことです。消費者が何を求めているか、世の中の流れや今の社会の課題について感度を高めておかないと絞れないんですよね。阿智村の「日本一の星空」も、時代とともに、どういう星空鑑賞なのか、意味合いを変えていく必要もあるかもしれません。そのときのマーケットを見ながら変えていくわけですね。
永井:自分たちの強みを生かして、ターゲットとする顧客を変えたり、顧客の課題に合わせて見せ方を変えるということですね。できそうでできない、でもとても重要なポイントですね。
(後編に続く)
(撮影:風間仁一郎)
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