「何でもあります」では地方に客は絶対来ない 超細分化する旅行ニーズに追いつけるか
山下:昔の団体旅行は、まず大型バスで夕方到着。チェックインして夕食と宴会、温泉に入って翌日に朝食を食べたら、もう9時前に出発、という感じです。温泉地の滞在時間が短いですよね。
しかし今、多くの温泉地が挑戦しているのは、なるべく早めに来ていただいて、まずはゆっくり街を歩いて楽しんでいただく。夕食後の夜もそぞろ歩きをして、朝起きて朝食前に散歩して、朝食を食べてからまた午前中ゆっくり楽しんで、お昼ご飯を食べてから移動、という感じです。さらにはもう1泊してもらって周辺の観光地も巡ってもらう。できる限り長く地域に滞在して楽しんでいただく街の仕掛けを考えています。
永井:寝泊まりするだけではなく、単なるお土産を作るだけでもない。いろんなことを体験できるようにする、ということですね。
街に出てもらうにはどうすればいいのか
山下:だから温泉地が考えるべきは、夕食後、浴衣を来て街に出てもらうために、どんな仕掛けがあればいいかということですね。浴衣で歩くときは、荷物は持ちたくないですよね。そこでたとえば兵庫県の城崎温泉では、財布を持たずに出られる仕組みがあります。
具体的には、専用ICカードで支払いができて、最後にフロントで精算ができるようになっています。成功している温泉街は、お客さんに旅館の外に出ていただいて、街が潤うことで、地域の人たちも観光客受け入れに理解が深まるという仕組みがうまく回っています。
観光客が街を歩くようになることで、自然と協力する人たちも周りから現れてきます。だから温泉街も、今までは温泉旅館の中だけで完結していたことを、どうやって外に持っていくかっていう工夫が必要ですね。
永井:しかし一方で多くの地域では、「地域づくりをしようにも、資源もないし、おカネもない。リーダーもいない」という壁に突き当たってしまうのが現実のようですね。
山下:地域では、いろんなことを考えている人たちもいるし、利害も錯綜しています。ひとつのプロジェクトを多くの人の合意形成や理解をもとにして、大掛かりに取り組むということが、すごく難しい時代です。永井さんが「そうだ、星を売ろう」で書いた状況も、まさにそうですね。
阿智村の星空ナイトツアーは、少人数ですごく面白い尖った取り組みを始めたわけですが、スモールスタートで広げていくのが、たぶんいちばんいいんだろうな、と思います。
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