ところが政界は違った。たまたま筆者は5月19日朝に、自民党の日本経済再生本部に呼ばれ、「国際的な政策協調について」というテーマでヒアリングを受けた。そこで申し上げたのは、①世界経済は危機ではないが停滞状況である。②各国協調による財政出動が望ましく、日本も消費増税は延期すべき。③投資のテーマとして、「ツーリズムのインフラ投資」を据えてはどうか、という3点であった。
その場の反響は悪くなかったのだが、終わってから稲田朋美政調会長からやんわりと、「消費増税はやはり、予定通り実施すべきではないでしょうか」とのご指摘を頂戴した。ああ、そうなのだ。自民党内でも財政再建重視派は少なくない。というか、自民党の衆議院議員の皆さんは、2年前に「次こそは必ず増税します」と言って当選しているのである。その事実は重い。民草はすっかりその気になっているのに、増税を延期するためには相当な政治的腕力が必要なのだ、とそこで初めて気がついた。
消費増税延期は「正しい判断」だった
昔の永田町であればこういうときに寝業師がいて、首相の意を挺して増税延期への地ならしをしてくれたものだ。故金丸信氏であれば、「白いモノでも親分が黒と言えば黒なんだ!」などと言ったかもしれない。あいにく今は「安倍一強」政局である。難しい話は、安倍さんの指示待ちモードになってしまう。
幸いなことに、伊勢志摩サミットとオバマ米大統領の広島訪問が好評で、内閣支持率が上昇した。その週末に、安倍さんがエイヤッと増税延期を決断してくれた。議員心理としては、各人の主義主張はともかくとしてホッとした、というところではなかったか。
それでは、消費増税の延期は正しい判断だったのだろうか。財政の持続性という問題は確かにあるけれども、ここで延期しなければ景気は腰折れして、おそらく財政再建どころではなくなっていただろう、と筆者は想像している。
正直に言うが、2014年の増税の際に筆者は「影響は軽微」と楽観していたし、そのようにこの欄でも書いていた。この点に関しては、増税を不安視していたぐっちーさんや山崎元さんの方が正しかった。夏場になって、ようやく「こりゃマズイ」と考え直した次第である(「ヤバい日本経済」、本当はイケてない? 2014年8月15日 )。
あの当時、増税楽観派の論拠は「消費税による増収分7.5兆円のうち、補正予算5.5兆円分が還元されるのだから、差額の2兆円くらいは吸収できるだろう」であった。今から思えば、時間軸を欠いた見方であった。実際に消費総合指数の推移をみると、2014年の増税から既に2年以上を経たというのに、消費はなおも2013年の水準に戻っておらず、だいたい2%くらい下回っている。
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