コカ・コーラの製法を盗んだ元社員の「誤算」 ペプシが競合の極秘情報を買わなかった理由

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ペプシがコークの秘密のレシピを手に入れてそれを公表し、コークとまったく同じ味のする飲み物を誰でも作れるようにしたとする。これは処方薬の特許が切れて、ジェネリック薬品の会社が製造に乗り出すときの状況にそっくりだ。

影響はというと、本物のコークの値段は大幅に下がる(でもまがい物のジェネリック・コーラと同じところまではたぶん下がらない)。コカ・コーラにとっては間違いなく一大事だ。

それだけじゃなく、たぶんペプシにも、やっぱり悪いことが起きる。

コークの値段がとても安くなったので、世の人はペプシからコークに乗り換えるだろう。ペプシのほうも利益が減ってしまうのだ。だから、コークの秘密のレシピを手に入れても、ペプシは誰にもそれを渡さないだろう。

ペプシがコカ・コーラを作ると損な理由

それじゃ、ペプシがレシピを自分だけで取っておいて、コークとまったく同じ味がする飲み物を自分で作ったらどうなるだろう? 

自分たちの飲み物はコークとまったく同じだと世の人に本当に信じさせることができたなら、新しいペプシ版のコークとホンモノは、経済学者言うところの「完全代替財」だということになる。

2つのモノが消費者の頭の中で本質的にはどちらでも同じであるなら、だいたい厳しい価格競争が起きて利ザヤはほとんどなくなる。その結果、コークもペプシの作ったまがい物も、ほとんど儲からない代物になってしまうのだ。

コークのほうが安ければ、消費者は元のペプシから、コークかペプシ版の新しいコークのまがい物に乗り換えるだろうから、元のペプシまでずっと儲からなくなってしまう。

結局、ペプシがコークの秘密のレシピを手に入れてそれを利用したら、コカ・コーラもペプシも、それまでより悪い状況に陥るのだ。

そういうわけで、ひょっとすると、コカ・コーラの企業秘密を盗んだかもしれない連中を通報したとき、ペプシの偉いさんたちは道義的で真っ正直な行動を採ったのかもしれない。

あるいはひょっとすると、彼らはただ、優秀な経済学者だったのかもしれない。

スティーヴン・D・レヴィット シカゴ大学経済学部教授

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Steven D. Levitt

40歳未満で最も影響力のあるアメリカの経済学者に贈られるジョン・ベイツ・クラーク・メダル受賞。ヤバい経済学流の考え方を企業や慈善活動に応用するグレイテスト・グッドの創設者。

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スティーヴン・J・ダブナー 作家・ジャーナリスト

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Steven J. Dubner

作家として表彰を受け、ジャーナリストとしても活動し、ラジオやテレビに出演する。最初の職業――あと一歩でロックスター――を辞め、物書きになる。以来、コロンビア大学で国語を教え、『ニューヨーク・タイムズ』紙で働き、『ヤバい経済学』シリーズ以外にも著書がある。

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