クルーグマン氏は自らの理論の失敗を認め、学者としての矜持を示しました。ところがリフレ派の学者たちは、アベノミクス失敗の要因を消費増税のほかに、世界経済の減速にも求めようとしています。彼らは多くの国民生活をいっそう疲弊させたことについて、どのように思っているのでしょうか。民間レベルでは結果と同時に責任を問われるのが常識なのですが、学者や政治の世界ではこういった無責任体質がまかり通ってしまっているのは、非常に残念なことです。彼らにもクルーグマン氏のように、最後は学者としての矜持を見せてほしいものです。
私は民主党政権の時代から一貫して、「日本は地道に成長戦略を進めていきながら、米国の景気回復と世界的なエネルギー価格の下落を待つべきである」と主張してきました。「辛抱しながら3年~5年くらい成長戦略を進めていくうちに、米国の景気回復と世界的なエネルギー価格の下落によって、日本人の実質賃金は上がり、人々の暮らし向きも良くなるだろう」と予想していたからです。ところがアベノミクスによって、日本人の生活は何もしなかったよりもさらに悪くなってしまいました。
参考になるシュレーダー政権の構造改革
今の日本に求められているのは、かつてドイツのシュレーダー政権が行ったような構造改革(=成長戦略)です。2000年代前半のドイツは社会保障が手厚いゆえに失業率が10%台に達し、「欧州の病人」と呼ばれていました。そのドイツが一強と呼ばれるほどの経済強国になれたのは、シュレーダー首相が2002年~2005年にかけて国民の反対を押し切って構造改革を断行し、ドイツの生産性を引き上げることができたからです。そして今や、メルケル首相はその功績の恩恵を最大限に享受しています。
なぜ日本の歴代政権では、シュレーダー政権のような成長戦略ができないのでしょうか。それは、少なくとも小泉政権以降の歴代政権には成長戦略をやる気がまったくなかったからなのです。成長戦略の成果が目に見えるかたちで現れるには、早くて5年、普通は10年の年月を要するといわれています。政治にとって優先されるのは、成果が出るのがずっと先になる政策ではなくて、目先の選挙で投票してもらえる政策を実行することです。したがって、歴代の政権は成長戦略において総花的な政策を掲げて賛成しているような素振りを見せてきましたが、結局のところ真剣に取り組もうとはしなかったのです。
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