【渡邉美樹氏・講演】情熱と実行力のリーダーシップ(その7)

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東洋経済主催セミナー「Leaders Conference 2008」より
講師:渡邉美樹
2008年2月12日 ロイヤルパークホテル(東京)

その6より続き
 リーダーシップの本当の行き先とは何か。社員の幸せをリードするのが、リーダーの役目であり、金を儲けることや会社を大きくすることは、二の次、三の次ですよ。社員の幸せをリードできる人間が本当のリーダーです。大きな目標を掲げ、それに対して一歩ずつ努力する。そのプロセスの中でたくさんの「ありがとう」を集め、人間的に成長することこそ、人間の幸せだと思っています。
 先ほどから繰り返し言っているように、怒りや感動、使命感が本当のリーダーシップの源泉だと思うのですが、その元の元は、本当にそうしたくてしょうがない。お客様がそこにいるのがうれしくて仕方ない。お客様の笑顔を見るのが楽しい……ということ。カンボジアの子どもたちと出会うと、いつも感動します。いつも震えます。いつも勉強になります。それが私の源泉なのです。

 今から7~8年前にあるドキュメント番組が、僕と会社のことを追いかけてくれました。要するにCS……顧客満足とは一体何だろうかということがテーマでした。
 最初の1週目くらいに、ディレクターの方が言いました。「和民ってすごいCSだよね。1枚のクレームのアンケートに対して仙台まで謝りに行ってこいなんて」と。そのお客様が使ったお金は1750円です。1750円に対して、1人のエリア・マネージャーを仙台まで行かせて謝まる。うちは当たり前ですよ、そんなこと。僕はこのディレクター、あんまり分かっていないなとそのときは思いました。
 それから3カ月間、彼は撮り続けました。そして最終日に彼がこう言ったんです。「撮り始めて1週間目ぐらいだったかな。社長に"すごいCSですね"って言ったのを覚えていますか」と。「覚えているよ。今回どうやってテレビにするの?」と私が聞くと、「いや、それが間違いだったってことを表現したい」と彼は苦笑いしながら言いました。さらに「渡邉社長は、そうしたいからしているだけでしょ。つまりあなたは、あなたのために仕事をしている」と言葉を続けました。私はそのときに、ちゃんと見てくれたな。きっといい番組になるだろうと思いましたね。

 つまりリーダーシップとは、自分が信じる道を自分のためにやりぬくこと。その自分がどこにあるか。つまりその本人の死生観も含めた価値観みたいなものが大事なのだと思います。その人がどこまでそのことに対して365日、24時間向き合うことができるのか。
 私はリーダーとして、大きな目標を掲げます。100年後に「この100年間で一番たくさんのありがとうを集めた会社はどこですか」というアンケートがあったとしましょう。そのアンケートで私たちは世界で一番になる。  だから世界規模で外食、介護、農業、環境事業を広げていきます。結果として売上が何千億になるか1兆円になるか、それは知らない。それよりも「ありがとう」の数を集めていこうと。そのプロセスの中で「私たちみんなが成長していこうよ。そしてそのプロセスの中で人間として成長し、幸せになっていこう」という話をいつもしています。

 1000人の心配をすることは誰でもできます。でも、1人の幸せのために1つの現実を変えることが大切だと私は感じます。そして「何をしたか」よりも、「いかにあるか」ということが、企業として人として大事なことだと思っています。どうぞ、皆様の会社がますます発展されますように。どうぞ、皆様が健康で幸せな日々を送られますように。皆様の夢がかないますように。心よりお祈りし、結びとさせていただきます。
(終)

渡邉美樹(わたなべ・みき)
1959年神奈川県に生まれる。1984年に有限会社渡美商事を設立し、経営が不振だった『つぼ八』の店舗を買い取る。24歳にしてフランチャイズ店オーナーとして起業する。1986年、株式会社ワタミ(現ワタミ株式会社)を設立。現在は外食、介護、農業、環境事業を展開するほか、NPO法人の設立や神奈川県教育委員会の委員を務めるなど、多彩な分野でその才を発揮している。
詳しくはhttp://www.watanabemiki.net
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