ストックの影響がフローを凌駕 金融政策で国内経済は制御できない

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この取引は、設備投資や住宅投資とは違って、瞬時にできることに注意しよう。設備投資を増やすには、工場の設計図を描き、資材を調達し、建設工事を進めなければならない。それには、時間がかかるため、金利低下への対応は、徐々にしかできない。それに対して証券投資は、コンピュータのキーを叩くだけで取引が完了する。

金融緩和で利子率が下がると、国内の投資が反応するより早く、海外への投資が増えてしまう。金融政策は、国内のフロー変数に影響するより早く、国際的ストック取引に影響してしまうのだ。このため、金融政策で国内の経済をコントロールすることができなくなる。つまり、効果が海外に抜けてしまうのだ。「穴のあいたバケツに水を注ぐ」という表現があるが、現代世界での金融緩和は、「底のないバケツに水を注ぐ」ようなものである。

美人投票のメカニズムでストックが動く

上で見たように、日本の金融緩和は「円キャリー取引」を誘発し、アメリカに資金が流出した。このため、アメリカの金融引き締めが効かないという事態が生じた。日本で効かずに、アメリカに影響したのである。

11年にも、日本の直接投資が急増するという事態が起きている。日本銀行の早川英男理事は、日銀が新たに打ち出した無制限の貸出支援制度により、円キャリー取引が増加する可能性があると先ごろ指摘した。アメリカの金融緩和も、国内の投資を増やしていない。

上に述べたように、ストックでは、巨額の取引が瞬時に行われる。それに加え、期待(予測)が大きく影響する。たとえば、FX取引でドルを買う場合、最大の関心事は、ドルが将来高くなるか安くなるかだ。そのため、将来の金利動向を予測する。それに対応して資本移動が起こり、為替レートが動く。

経済危機前に円キャリー取引が生じたのは、日本の金利が下がったからだけでなく、「日本政府が介入するから円高になることはない」との期待があったからだ。それがドル買いをさらに増やし、円安をさらに進めた。これは自己増殖過程だ。この期間の円安は、バブルだったのだ。

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