新興市場国は金を買い続けてはいるが、米国を筆頭とする富裕国の国債購入量に比べれば微々たるものだ。2016年3月時点で中国の準備高に占める金の割合は2%、インドでは5%にとどまっている。ただ、ロシアだけは金の購入を増やしており、準備高に占める金の比率は15%近くに達している。欧米諸国からの経済制裁の影響が、少なからずあるのだろう。
新興市場国が外貨を保有する理由は、金融危機や債務危機を脱するためにインフレを起こす余力がないからだ。新興市場国では現在も、国際債務の大部分や、世界との貿易のさらなる大部分が、ハードカレンシー建てだ。原理的には新興市場国の資金を、国際通貨基金(IMF)などの管理下でプールできたなら状況は非常に改善されるのだが、そのような取り決めを行うには信用が足りない。
安全資産の需給ギャップ縮小にひと役
金保有率を増やせばシステムがうまく機能するのはなぜか? 現状の問題点は、新興市場国が富裕国の国債を奪い合っている結果、得られる利回りが低下してしまっている点にある。また、先進国の国債の発行数は、その国の税負担の能力やリスク受容度によって、制限されてしまう。
これに対し、金は供給量がほぼ一定だが、価格に上限はないのでこうした問題は起こらない。さらに金は非常に低リスクな資産で、実質利回りの平均は超短期の債権に匹敵する。さらに準備資産として必須の要素である、流動性も高い。中央銀行は長期の平均リターンを見越して短期の価格変動を受け入れることができる。
確かに金から金利は得られないし、貯蔵コストもかかる。しかしこうしたコストは、必要であれば海外に置いておけば効率よく管理できる。実際に多くの国がニューヨーク連銀に金を保管している。
金の保有にシフトすると、新興市場国が先進国を食い物にして利益を得ることになる、と言うつもりはない。先進国の中銀や国庫には現在、新興市場国が有するよりもはるかに多量の金があり、新興市場国が段階的に金保有を進めれば、金価格は競り上がっていくだろう。
ただ、これは世界全体に影響するほどの問題ではない。金が値上がりしたとしても、金利がゼロ近辺にまで下がったことで発生した、安全資産の需給ギャップを縮める程度にとどまるだろう。
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