北朝鮮が36年ぶりに開く党大会の重大な意味 金正恩体制を固める総仕上げになる可能性

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政治面では、これまでの旧ソ連・東欧圏の崩壊という国家存続が危ぶまれた国際危機や、核開発などを契機とする経済制裁など対外的な圧力から耐え、軍事強国、核強国、宇宙強国(ミサイル開発)の地位に上り詰めたという言葉をつかって、既存の体制確立をさらに高めようという内容の話が出てくる可能性が高い。

同時に、2012年の第4回党代表者会で朝鮮労働党は「金日成・金正日の党」と規定されており、今回はすでに北朝鮮国内ではっきりと示されている「金日成・金正日主義」をさらに打ち出しながら、思想面での体制強化もアピールすることになるだろう。

経済分野では、金正恩第1書記による政治が本格化して以来継続して強調されている「社会主義強盛国家建設」という国家目標を再確認するような政策などが発表される可能性が高い。また、第4回大会での「第1次人民経済発展7カ年計画」、第6回大会での「社会主義経済建設10大展望目標」といった具体的な経済政策が打ち出されるかどうかが注目される。だが、現状強を考えると「経済計画」のような具体的な中身を持つ経済政策が発表されるかは疑問視されている。

韓国の北朝鮮専門家である鄭昌鉉(チョン・チャンヒョン)氏は、「経済制裁など対外情勢が不安定なこともあり、実施状況が具体的に評価される経済計画を発表することは厳しいのでないか」とみている。さらに「たとえば『強盛国家建設のための10大展望目標』といった、やや通称的な目標値を提示するぐらいにとどまるのではないか」(鄭氏)。

具体的な中身を持つ経済政策が出るか?

実際に、金正恩政権が本格化した2012年以降、北朝鮮では「経済管理(=運営)方法」の改善を強く打ち出してきた。それは、「社会主義強盛国家建設偉業に成果を出しながら実現するためには、現実発展の要求に合わせ、われわれ式の経済管理方法を確立すべき」といった言葉に代表されるものだ。それは、中央による経済運営・管理という従来の社会主義経済運営の大枠は変えないものの、多くの権限を工場や企業所といった現場に委譲し、その現場の実情に合わせた経済・経営運営を行うものになっている。

しかし、その導入と実施にはまだまだ反発もあり、慎重に導入されているのが実情だ。そのような状況において、党大会でもより具体的な経済計画や政策を打ち出すと混乱する可能性がある。これに加え、2016年1月の核実験や2月のミサイル発射により、国際的な経済制裁が強化されていることで、今後の経済的成果の見通しにも不安定感が漂っている。北朝鮮は対外経済の窓口として、13の道・直轄市と220の地方都市において「経済開発区」の開発を進めているが、これといった実績はまだ出ていないことも、具体的な経済政策の提示にまで至らない可能性を高めている。

前出の鄭昌鉉氏は「第7回大会が36年ぶりの開催であり、金正恩体制にとっても初の大会となる。そのため、想定外の意外な政策が発表されたり人事が行われることも排除できない」と指摘する。今回の党大会が、金日成、金正恩時代の遺産を継承しながらも、自らの「金正恩体制」の本格化をさらに宣言する大会であり、そのための政治イベントとしてうまく活用するつもりかもしれない。

北朝鮮は、旧ソ連・東欧圏の崩壊や「苦難の行軍」と言われた極めて厳しい経済難を受けて「先軍」と呼ばれる軍中心の国家運営を行ってきた。そこから、社会主義国家らしい「朝鮮労働党」による、本来あるべき国家運営に戻すためには、本来の最高指導機関である党大会の開催が必要だとの判断があったとも考えられる。
 

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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