錦織圭を育てたコーチが見た「天才という病」 なぜ有名選手が続々と不祥事を起こすのか

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先ごろ監修した『うまくなるテニス』(学研プラス)に続き、6月には、錦織選手との歩みとともに、その独特の指導哲学を著した『戦略脳を育てる―テニス・グランドスラムへの翼』(大修館書店)が刊行される。今後も注目したい指導者のひとりである。

その柏井さんがテレビで観たというバドミントン選手の会見。「違法なことをしているという自覚はあったか」という質問に、桃田選手はこう答えた。

桃田選手の気になる発言

「自分もスポーツマンで勝負の世界で生きているので、ギャンブルに興味があり、やめられない自分がいました」

スポーツマンはギャンブルにはまりやすいと言っているように聞こえなくもない。百歩譲っても、スポーツはギャンブルと親和性があると桃田は口にしたのだ。

「公の場で、しかも謝罪会見で言う話ではないでしょう。桃田選手は発覚前、自分が子どもの見本になって(日本バドミントン界を)盛り上げたいと話していた。試合に勝つ、メディア対応をするといったプラスの方向には目が向いていたのでしょう。ただ、これはダメ、こっちもあかんというマイナスの方向には向いてなかった」

ところで、この原稿を書いている途中で、柏井さんがにんまりしそうなニュースがネット配信されているのを見つけた。

「錦織、熊本へマットレス1000枚送る」

錦織が熊本地震で被災した人たちへ、自らも使用しているマットレスを寄付した。被災者が少しでも安心して眠れるよう「今自分ができることを考え、避難所へ送ることにしました」と支援物資を選んだという。

スポーツ庁鈴木大地長官は「メダルの数、色も大事だが、社会の範となる選手を育てていくことを政策の中心に据えていきたい」と語ったそうだ。

「社会の範となる選手」が具体的にどんな人物像で、どのように育成するか。そして、そこに寄り添う大人の資質はどんなものなのか。そこを語り、実践できる人は決して多くない。だからこそ、若いトップアスリートたちの不祥事が起きたとも言える。

選手育成の前に、まず大人を育てる必要があるのではないか。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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