29日に臨時国会が始まるが、与野党激突のままで、野田首相は視界ゼロで国会開会を迎える。今後の政権運営についてどんな展望を抱いているのか。
最近の言動から推察すると、来年度予算の編成後の衆議院解散を模索しているように映る。特例公債法案や選挙制度法案などの審議に非協力姿勢の自公両党への批判の高まりを待ちながら、12月まで持ちこたえ、予算編成の効果をアピールして党勢挽回を図った後に総選挙、というシナリオだ。
解散戦略ではもう一つ、12月中といわれるロシア訪問も重要視しているに違いない。
プーチン大統領との会談で、もし北方領土返還交渉開始という成果を手にすれば、政治の景色が一変し、支持率急回復も夢ではない。解散はその後に、と考えているのではないか。
あまり知られていないが、野田首相は以前から北方領土問題に並々ならぬ意欲を抱いていて、今年2月に東京で行われた返還要求全国大会でも、過去の首相と違って、最後まで退席せず、「やる気」を示した。この問題に熱心な新党大地の鈴木宗男代表は、小渕内閣時代に官房副長官として森(元首相)・プーチン会談をセットしたりした実績があるが、全国大会以後、野田首相は鈴木氏を何度か呼んで対露問題でアドバイスを求めたという。
尖閣諸島や竹島の問題が火を噴く中で、3月に大統領に復帰したプーチン氏は、中国寄りだった前大統領と違って、中国とは一線を画して領土問題では沈黙を守っている。中国の極東ロシアへの経済進出など、中露間の摩擦もあり、中国をにらんで、経済協力を視野に入れた対日接近という計算があるのかもしれない。そこで、障壁となっている北方領土問題の打開が必要とプーチン大統領が考えれば、閉ざされていた歴史の扉が動き始める。
野田首相はその気配を感じ取り、訪露に賭けるという気持ちを強めている可能性がある。だが、大きな壁が横たわる。仮にプーチン大統領がその気になったとしても、「風前の灯」の野田首相は相手にしないと判断すれば、訪露戦略は絵に描いた餅に終わる。首相にその壁を乗り越える妙案はあるのだろうか。
(写真:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら