逆風下の船井電機 創業以来初の社長交代
そのワンマン経営スタイルで知られる電機業界の名物社長が、経営の第一線から身を引く。船井電機創業者の船井哲良社長(81)が代表権のない会長に退き、林朝則専務執行役員(61)が社長に就く見通しとなっている。同社のトップ交代は1961年の設立以来初で、6月の株主総会を経て正式に交代する。
船井社長は戦後まもなく裸一貫で前身のミシン卸会社を興し、一代で中堅家電メーカーへと育て上げた。トヨタ生産方式をヒントに独自の生産システムを構築し、90年代に本格進出した中国の工場へノウハウを移植、業界屈指のコスト競争力を築いた。90年代後半からはウォルマートなどの米大手ディスカウンターを味方につけ、全米で低価格のAV製品を大量に販売し、短期間で急成長を遂げた。
その船井社長も昨年で80歳を迎え、後継者選びが大きな課題だった。当初、次期社長の最有力候補と目されたのが旧大蔵省出身で京セラ幹部を務めた中島義雄副社長。中島氏は船井社長が自ら口説き落として2005年に招聘。幹部らの前で「次の社長は中島に決めた」と言うほどだった。
逆風下の後継指名
にもかかわらず別の人物を選んだのは、事業環境の激変が大きな理由だろう。これまで同社が得意としてきたDVD関連機器やブラウン管テレビは市場が急激に縮小。一昨年から本格的に参入した薄型テレビも収益柱に育つどころか多額の損失を出している。
デジタル家電市場では近年、台湾や中国のOEMメーカーが急激に台頭。こうした業者に作らせた激安の薄型テレビを発売する新興ブランドが相次ぎ、低価格を武器にしてきた船井は主戦場の北米で苦戦を強いられている。06年度まで200億円以上あった営業利益も、07年度は上場以来初の赤字に転落した模様だ。
次期社長に選ばれた林氏は設立まもない69年に入社した生え抜き。技術面の知識も備え、現在の収益柱であるプリンターOEM事業の立ち上げでも大きな実績がある。06年から最重要地域である北米の販売会社トップも経験し、海外事情にも詳しい。
これまでは船井社長の強烈なワンマンスタイルで幾度の難局を乗り越えてきた。強い逆風下、林新社長の経営手腕がすぐさま問われよう。
(渡辺清治 =週刊東洋経済)
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