「反ロシア色」強める中国はどこへ向かうのか 下手すれば米中ロの三つどもえの争いも

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とはいえ、この提案は中国が最近、反テロ支援の目的でアフガンに7000万ドルの供与を認めたのに続くものだ。中国の習近平主席が提唱した、中央アジアなどを経て中国と欧州を経済的に繋ごうという「一帯一路」構想とも関係している。

こうした取り組みの一切は、ロシアを明確に除外している。中国とロシアが中央アジア諸国とともに設立した上海協力機構がこれまで15年間にわたって続いてきた点からすれば、注目すべきことだ。

 現地のイスラム過激派組織によるテロ行為も、中央アジアでの重大な懸念材料だ。実際にイスラム国(IS)は最近、同地域に勢力を伸ばす試みを重ね、中国に対しても以前に増してはっきり狙いを定めている。

中央アジア人(ほとんどがテュルク系民族)は、中国とロシアのいずれの国でも、人種的または文化的な多数派に属していない。両国には計2500万人近い中央アジア人が住んでいるが、彼らは現地のコミュニティに溶け込めておらず、少なからず憤りと緊張を呼んでいる。

少数民族であるウイグル人が再び中国政府に抵抗することは、彼らに対する北京政府の扱いをみれば考えられることだ。新疆ウイグル自治区では最近、中国の軍隊や警察が急激に増強され、一部地域は戒厳令が敷かれているのにほぼ等しい状態にある。この状況が発展すれば、中国の軍や警察が中央アジアにも駐留することもあり得る。

中国が国際社会で傍若無人に振る舞っていることも、中央アジアでの外交攻勢や同盟構築の取り組みを目立たせている。

中国は今年に入って、米軍や日本の自衛隊などが駐留するジブチ共和国で進めてきた海軍基地の建設を完了した。中国にとってはこれが、国外初の軍事基地となる。それは人民解放軍の組織改革が行われた直後のことだ。組織改革では陸軍の縮小が実施される一方、世界各国に駐在する中国軍に国防の範囲を超えた権限が与えられた。

ロシアのプーチン大統領は、ウクライナやカフカス、そして中央アジア諸国など「near abroad(旧ソ連邦諸国)」が国外から介入されることに、歴史的な理由から不快感を示してきた。そのロシアに対しても、中国の態度は変わらない。

米国はどう動くか

中央アジアで中ロ間の衝突が起こる場合に大きな不確定要素になるのは米国だ。約15年間アフガニスタンに軍事介入を続けた米国にとって、中央アジアの安全保障は国益に直接大きく関わっている。米国は中国に肩入れするかもしれないし、逆にロシアと組むかもしれない。あるいは三つどもえの戦いもありうる。

しかし、中国と米国の同盟実現は現時点では臆測の域を出ない。米中ロの三ヵ国は、しばしば外交政策で互いに疑念を抱くこともあったが、同時に互いを必要とすることも度々あった。このため、三国が中央アジアで対立することはないと考えられる。少なくとも今の段階では。

著者のピーター・マリノ氏は、北東アジア地域などを専門とする国際政治アナリスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。

 

 

 

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