立場の生態系では安全と危険の区別もない--『幻影からの脱出』を書いた安冨 歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)に聞く
ただし、専門家である以上、原理的に無理とは言えないので、解決しないといけない。そこで使われるのが、欺瞞言語。解決したことにしないと専門家の立つ瀬がない。専門家でない人が、何も解決していないと苦情を言ってきたときに、押さえ込むための言語体系がいる。言い換えれば、ある特殊な知識を持った人たちがそうでない人たちを支配するシステムだ。それが実は一部であるにもかかわらず、人々を秩序づけている秩序そのものであるふりをして、それを人々に受け入れさせて支配を継続していく。これはありとあらゆる学問分野においてそうだ。
──具体例としては?
環境問題が典型的だ。地球環境と人間社会の関係性にかかわる問題であり、主として人間社会の問題のはずだ。それを環境問題と呼び、あたかも問題が環境にあるかのように見せる。それも人間社会の存立基盤に対する自己破壊行為をCO2の問題にしてしまう。そこで専門家的な知識を発揮しようとすれば、減らすには原発を増やせばいい、となる。原発にすればCO2の排出は減る。だが、増えるプルトニウムや事故対応はどうするのか。こうした視野狭窄の専門家的解決を過去数百年にわたって繰り返してきたために、人類社会は危機に陥っている。
──それは東大に限ったことではないですね。
東大話法はほかの大学でも使われ、私が過去に在籍した京都大学でも、それで動いている。ただ京大はそれがすきなく作動するほどしっかりやっていない。学生の完成度も東大と京大ではずいぶん違う。京大は極端な変人が学生にも先生にもけっこういる。