住宅プチバブル、迫りくる「終わりの始まり」 中国株急落の昨夏がピークだった?
「確かに世界的な株安の影響もありました。しかし根本的な理由は、人気が高いエリアの物件の価格が上がりすぎ、期待できる投資利回りが低くなってしまったことです」
投資利回りとは、物件の買値に対して、年間の賃料収入から家主が負担する諸経費を差し引いた「もうけ」がどのくらいの割合になるかを示す。自分や親族が住むためではなく、投資資金の運用先としてマンションを買う人が注目する指標だ。田中さんが扱う物件では、2年ほど前は9~10%の利回りがふつうだったが、最近は5%を切る物件が珍しくない。20年余り後になってようやく元がとれるかとれないか、という水準だ。
「都内の不動産価格は今後、下がっていく可能性が高いと思います」(田中さん)
「昨年夏ごろピーク」
このような見方をするのは田中さんだけではない。ニッセイ基礎研究所が今年1月、不動産業界関係者を対象に実施したアンケートによると、住宅やオフィス、商業施設といった東京の不動産全般の価格がピークに達する時期についての回答で多かったのは「2015年または現在」で27.9%。「16年~17年上期」は27.0%だった。回答者の過半数が「すでにピークは過ぎたか、遅くともあと1年余りのうちにピークに達する」と予想していることになる。
この調査を担当した増宮守・准主任研究員は言う。
「さまざまなデータから判断すると、不動産価格は昨年夏ごろにいったんピークをつけたと見ています」
ニッセイ基礎研究所が他社から入手しているデータによると、国内の大口不動産取引の総額は11年を直近の底に、14年まで右肩上がりで伸びていた。
安倍政権の発足後、日本銀行の大規模な金融緩和によって大幅な円安となったため、海外の投資家にとって日本は「大バーゲンセール」状態に。アジア新興国や欧米各国のマネーが、シンガポールや香港に比べてもともと割安だった日本の不動産市場に押し寄せた。
金融緩和でカネ余り状態となった国内の投資資金も株や不動産へ回った。国内の資産家の間で15年1月の相続増税前後から、タワーマンションを購入して相続税の負担を抑える「タワマン節税」も流行。こうして流れ込んだ国内外の投資マネーが首都圏のほか、大阪、名古屋、福岡といった地方の主要都市を中心に不動産価格を押し上げた。
しかし、増宮氏によると昨年、大口の不動産取引の総額は前年比で減少に転じたもようだ。大口の海外資金による国内不動産への投資額も前年を下回ったという。チャイナ・ショックの後、世界と日本の経済の先行きへの懸念が強まり、国内外の投資家が以前より慎重な姿勢に転じたことが影響している。