三菱重工、豪華客船で払った高すぎる授業料 注文こなせず混乱、造船事業は縮小か

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内装など細かな仕様に関しても、アイーダ側は三菱重工の提案より高級な仕様を要求。レストランのタイル一つ取っても、指定の輸入品に加え、欧州から専門の職人まで呼び寄せる徹底ぶりだった。このため、2013年度に終える予定だった1番船の設計は何度も図面の修正が必要となり、結局、2015年度までずれ込んでしまったのである。

設計の遅れは資材調達や作業工程の混乱を招く。遅れを取り戻すためピーク時には作業員が5000人を上回り、「コントロールの限界を超えていた」(鯨井洋一副社長)。外国人技能者や協力会社など、さまざまな雇用形態の作業員が入り乱れる現場は管理監督が行き届かず、今年に入りぼや騒ぎも3回発生した。

1番船の遅延は後続の2番船にも影響する。作業手順の見直しなど改善策を講じているが、当初計画より完成時期は遅れ、2016年度上期中の引き渡しを目指している。

起死回生の戦略が裏目

そもそも1番船が赤字となるのは覚悟のうえ。設計などベースを固めた後、同型船を連続建造し利益を出すのが常套手段だが、ここまで損失が膨んでしまっては、3番船以降の受注は「まったくの白紙」(鯨井副社長)。大型客船の継続自体について、社内の評価委員会で議論を重ね、夏ごろまでに結論を出す方針だ。

これほど困難な大型客船になぜ手を出したのか。アイーダの客船を受注した2011年当時、造船業界は2008年のリーマンショックまで続いた海運・造船バブルの反動で、新船の発注量が激減。韓国勢や中国勢の攻勢にもさらされ、日本の造船業は存続が危ぶまれた時期でもある。

三菱重工は一般汎用商船から撤退し、技術難度の高い船種に集中する戦略を掲げた。大きな柱に位置づけたのがLNG(液化天然ガス)運搬船と、1隻当たりの受注金額が大きい大型客船だった。競合はイタリアやドイツなど欧州の造船所に限られ、過去の建造実績や自社の技術力をもってすれば、新たな収益柱に育成できると考えた。

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