曇りでも人気!「日本一の星空ツアー」の秘密 長野県の小さな村が起こした奇跡

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まず「スターガイド」という世界初の試みに挑戦している。しかし、新しい挑戦は失敗が必ずつきものだ。だから最初に「失敗はする」と覚悟することだ。

ただ失敗が「日本一の星空ツアー」の存続を左右する大きな問題になっては困る。阿智村の場合、来場客が少ない当初から、細かい試行錯誤を繰り返して経験を積み重ねていった。これが企業の商品やサービスの開発でも同じだ。商品立ち上げ段階はお客様が少ない。この段階は試行錯誤を通じて経験を積み重ねるチャンスであるのだ。

失敗を認め、原因を探すことが必要

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そして失敗を失敗として認めることだ。失敗を事実として認めない限り、学びはない。しかし犯人捜しは意味がない。失敗した現象を客観的に見て、何がいけなかったか、原因を探すことが必要だ。スターガイドたちも毎晩の反省会を通じて、この失敗から学ぶプロセスを繰り返しているのだ。

阿智村のスターガイドは、2012年の初日から、毎日この反省会により、愚直な仮説検証を繰り返している。この仮説検証からの学びが、「星空」を売りにしようとする他地域では決して真似ができない、「日本一の星空ナイトツアー」を差別化する源泉になっているのだ。

スターガイドのおかげで、晴れない日も「日本一の星空ナイトツアー」を開催できるようになったことが、逆に阿智村の宿泊客増につながる結果を生み出している。シーズン中の星空ツアー開催日のうち、晴れているのは6~7割、クリアにキラキラと星が見えるのは3割だ。確実に星を見るために、遠来の客は2~3泊するようになった。

実際に私自身、2015年7月に取材した時は2泊した。初日は満天の星空を楽しみ、曇りだった2日目はスターガイドの説明を楽しんだ。さらに季節によって夜空に浮かぶ星座が変わることも、リピート率向上に貢献している。温泉だけを売りにしていた頃の昼神温泉は、名古屋からの日帰り客も多かった。しかし「日本一の星空ナイトツアー」は、連泊するリピーターも増やしているのだ。

阿智村の「日本一の星空ナイトツアー」が人気なのは、単に幸運に恵まれたのではない。裏にある愚直な仮説検証を通して学びを蓄積する仕組みが、圧倒的な差別化を生み出したのだ。

永井 孝尚 マーケティング戦略コンサルタント

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ながい たかひさ / Takahisa Nagai

慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMの戦略マーケティングマネージャー、人材育成責任者などを経て、2013年退社。同年、多摩大学大学院客員教授を担当。マーケティング戦略思考を日本に根づかせるため、ウォンツアンドバリュー株式会社を設立。多くの企業・団体へ戦略策定支援を行う一方、毎年2000人以上に講演や研修を提供。2020年からはオンライン「永井経営塾」主宰。著書に60万部超『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ、15万部超『世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた』シリーズ(すべてKADOKAWA)など。著書累計は100万部超。

オフィシャルサイト

X(旧Twitter) @takahisanagai

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