ロシアの成功で得た「解」 三菱自動車が選ぶ道
強力タッグの間隙 払拭されない資金リスク
商社の情報力を生かした需要の先取りと、現地主導の経営戦略。それが三菱自動車のロシアでの成功を支えた。現在3万台強を売る英国などでも、同様の進出形態をとっている。
では、そうしたある種の製販分業の徹底こそが、三菱自動車が今後、新興国での激戦を勝ち抜くカギになるのだろうか。益子社長の答えは「イエス」。自社はもっぱら開発・生産に専念することで、経営資源を省力化できるのだ。
興味深いのは、同じ経営再建の経験を持ち、よく比較対象にされるマツダとは対照的な道であること。マツダの場合、逆にまずブランドイメージを中心に据え、その理念を浸透させるために、海外販売は自前化が望ましいという考え方だ。実際、00年ごろから欧米で販売会社の完全子会社化を進めている。
実は三菱自動車社内にも、マツダ的な戦略を検討する動きはあった。マツダの「Zoom‐Zoom(ズーム・ズーム)」のような世界共通ブランドメッセージを策定するため、専門の検討委員会を昨年組織、今回の次期中期経営計画の中に盛り込む予定だった。だが結局は見送りに。世界横断的なブランドで上から縛ることが、現場重視の地域戦略と相反する内容であったこととは無縁でない。求心的な個性に固執するのではなく、地域事業主体めいめいがブランドを創造する余地を残す、機能性重視のクルマづくり--。それは今後の三菱の車種戦略においても、基本線と見て間違いないだろう。
だが問題は、現状の商社と現地パートナーとの強力タッグだけでは、販売促進はできても、クルマづくりにまでは踏み込めないことだ。
次期3年間で発売を予定する主な新車は4~5車種程度と、決して十分な玉数とは言えない。確かに、日産やPSAプジョー・シトロエンなどと完成車やエンジンの相互供給契約を結んではいるが、対象は小型の商用車や地域専用車といった小粒なものにとどまっている。筆頭株主の三菱重工とは当初、製品開発面での協力が期待されたが、実際は扱う製品の違いからシナジーを出しあぐねている。進行中の次世代ディーゼルエンジンの共同開発も、三菱重工は実験設備を提供する程度で、あくまで補佐的な役割だ。
さらに三菱自動車に立ちはだかるのが、優先株の存在という重大な資金流出リスクだ。三菱グループ等に発行するその総額は4400億円。09年度からは年間220億円の優先株配当圧力が生じる。対策として優先株買い入れ消却が筋となるが、08年3月期の純利益に換算して22年分の巨額資金をどうやって調達するのか。具体策はまだ見えない。
かつて自動車業界に「400万台クラブ」という言葉が流行し、合従連衡が鼓舞された時代があった。結局それは幻想に終わったが、「環境」と「安全」という新たな製品競争軸に移行する中、優位に立つ新車の開発には莫大な資金力を要する。ロシアの成功が与えた「解」は、三菱自動車の持続的成長を支える車軸のほんの1部に過ぎない現実がある。
(西澤佑介 =週刊東洋経済)
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