貧困問題を解消するには、空き家を活用せよ 「下流老人」著者が提言する格差是正の処方箋

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奨学金を借りる背景にあるのは、学生の親世代の所得減少だ。国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によると、民間企業の労働者の平均年収はピークだった1997年の467万円から2013年には414万円に下がった。親からの仕送りも減少しており、奨学金を借りたり、アルバイトをしたりして、学費や生活費を工面しなければならない。

そうした中で台頭してきているのがブラックバイトである。バイトを辞められない弱い立場である学生に対し、休憩なしの長時間労働やクリスマスケーキやおでん、衣服、化粧品などの自社商品を自腹で購入させるといったむちゃな労働を強いる企業が少なからずある(若者の貧困については拙著『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社現代新書)をご覧いただきたい)。

富裕層は社会の構成員として応分の負担を

学生の本分である勉強に専念する環境を作るためには、返済の必要がない給付型奨学金の拡充が欠かせない。財源は富裕層に対する課税だ。奨学金問題に詳しい中京大学の大内裕和教授によると、給与所得は累進の最大税率が45%、株や債券などの金融所得が20%であり、この税率を同じ累進で最大45%にするか、あわせて総合課税すれば相当な財源ができるという。筆者もおおむねその意見に賛成する。

富裕層が富裕な状況でいられるのは、社会があって労働者がいるからだ。努力をした者が多くを得られることは否定しないが、その努力ができる環境も社会が与えたもの。その社会が危機に瀕しているときには、社会の構成員として責任を応分に求めていくことを避けてはいけない。

アンソニー・アトキンソンは『21世紀の不平等』の中で「すべての家庭に児童手当を支払うべき」と提言している(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

教育に社会的な投資がなされれば、長期的には納税者として国を支える存在になる。人が資源と考え、積極的に先行投資をしている北欧のほか、英国でも不平等研究の大家であるアンソニー・アトキンソンが『21世紀の不平等』の中で「すべての家庭に児童手当を支払うべき」と提言するなど、海外ではそうした考え方が広がっているが、日本では十分に議論がなされていない。

貧困層が厚くなればなるほど、税金や社会保障費は膨らむ一方だ。その状態が長く続けば、健康にも影響し医療費も増える。放置すると上の世代にも下の世代にも影響を及ぼすのである。貧困は人ごとではない。それを食い止めるためには日本全体で危機感を共有して議論を深め、早急に手を打つ必要がある。

藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事

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ふじた たかのり / Fujita Takanori

1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人――一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)などがある。
 

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