そして今週、松山はオーガスタに送り出された 「チーム松山」しか語れない松山英樹論<後編>

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「アマチュア時代もプロになってからも、ヒデキが目の前のやるべきことに全力を尽くす姿勢や目標達成を目指す姿勢は変わっていません。でも、プロになった以上、彼を取り巻く環境はずいぶん変わりましたし、ヒデキ自身の職業意識や責任感が強くなったことは確かです。アマのときは自分一人ですし、おカネも生活も関係ない。でも今は、期待がすごく大きいし、契約先やファンからの応援も多い。プレッシャーや背負うものが増えれば増えるほど、プロとしての彼の意識は高まっているんだと思います」

すでに米ツアー2勝。世界のトップ15に食い込み、さらに上へ上へと進んでいる松山だが、そんな彼にも「ホントに、いろんなことがありました。ヒデキも人間ですからね」と、進藤キャディはしみじみ。「進藤キャディに対してだけは弱音を吐いたこともあったのか?」と尋ねると、「ヒデキは口では言わないんです。でも、きっと落ち込んでいるんだろうなと僕が感じたことは何度もありました」。

2013年の全米オープンを皮切りに松山がメジャー大会や米ツアー大会に挑み始めた出だしの時期は、ペナルティを科せられたり、予期せぬ批判を受けたりと、松山にとっても進藤キャディにとっても、まさに想定外の出来事がいろいろあった。

「決して平坦ではありませんでしたけど、一つ一つ、いいときも悪いときも一緒に味わってきた。それが信頼感になっているのかなあ。そうだったら、うれしいですけど」

進藤キャディは、そんなふうに常に謙虚だ。松山は太陽、自分は月で、太陽が輝くことが自分の喜びだと感じているかのようだ。

「もちろん、優勝した瞬間はすごくうれしかった。あの瞬間は、やっぱり格別です」

しかし、優勝のような大きな出来事とは別の日頃のちょっとしたやり取りの中に、うれしい瞬間が実はあるのだと進藤キャディは言う。

キャディ冥利に尽きる瞬間

「ねぎらいの言葉って言うんですかね。そういう言葉を選手からかけてもらうことがキャディとしては、とてもうれしいんです。ヒデキは不器用なところがあるので、そういうのを冗談めかして言うときもあります。
でも『風のジャッジが良かった』『グッジョブ!』『ライン読み、完璧だった』なんて言ってもらったときは、ホント、キャディ冥利に尽きます。生きてて良かったとさえ思う。

それにヒデキは真面目な話をしているときに僕の家族のことを心配してくれたりもする。ああ、僕の気持ちも思いやってくれているんだなって、そう感じられる。張り詰めた日々の中、上に行けば行くほど、人の気持ちを汲み取るのって難しくなりますよね。人は、そうなりやすいですからね。でもヒデキは違う。

そんなヒデキがハッピーでいてくれるときが僕はいちばん好きです。ヒデキがハッピーになるように支えていけたら、僕はそれがうれしいです」

たくさんの日本人選手のバッグを担いできた進藤キャディだからこその見方、感じ方だ。そして、トッププレーヤーたちが自分のことだけで精いっぱいになりがちな中、「そうならない松山」だからこそ、進藤キャディも“チーム松山”も、みな松山を一生懸命にサポートし続ける。

松山英樹はそうやって今年のオーガスタへ送り出された。

舩越 園子 在米ゴルフジャーナリスト

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ふなこし そのこ / Sonoko Funakoshi

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年にフリーライターとして独立。93年渡米。在米ゴルフジャーナリストとして新聞、雑誌、ウエブサイト等への執筆に加え、講演やテレビ、ラジオにも活動の範囲を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。アトランタ、フロリダ、ニューヨークを経て、現在はロサンゼルス在住。
 

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