鉄道マンを育てた「幻の絵本」がついに復刊! 乗り物絵本の第一人者が描いた「山手線一周」

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復刊に踏み切るかどうかを決断する前にまず取り組んだのは「どこが間違っているのかを徹底的に検証すること」だった。古川さんは絵本に登場する鉄道会社に相談。そこで紹介されたのが、京急電鉄総務部広報課の飯島学さんだった。

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絵本にも登場する、大塚駅で山手線をくぐる都電荒川線(写真:pretty world/PIXTA)

鉄道ファンである飯島さんは、幼少期に『でんしゃがはしる』を愛読。「わくわくしながら読んでいた。電車もカラフルで子ども心に印象に残っていた」という記憶と同時に、「『ここはちょっと本物と違うかも』と思う部分もあった」というほどの熱心な読者だった。

相談を受けた際、飯島さんが印象的だったのは、無数の付箋が貼られた『でんしゃがはしる』の本だった。読者に指摘を受けた部分を全て確認し、検証してあったのだという。以前、京急電鉄の電車をテーマにした絵本の監修をしたこともある飯島さんは「絵本作りのこだわりや情熱を強く感じた」。そして「この本で育って鉄道員になったのだから、当時の子どもとして協力したい」と快諾した。

飯島さんによる検証は、車両の側面にある通風口の位置や、当時そのナンバーの機関車や電車が本当にその路線に在籍したのかなど細部まで徹底的に行われた。例えば、渋谷駅付近で登場する東急東横線の電車「8514」は1977年2月までは東横線を走っていたものの、絵本の編集段階である1978年には田園都市線に移籍しているのでこの場所は走っていないはず・・・といった具合だ。

1970年代のタイムカプセル

だが、現在の視点では一見間違いと思ってしまう部分でも、絵本が制作された当時としては正しかった部分も数多くある。例えば、品川駅の場面では同駅に乗り入れる路線として「よこすかせん」がなく「そうぶせん」と書かれている。これは間違いではない。横須賀線と総武快速線が直通運転を始めたのは1980年10月。この絵本が出た当時は、総武快速線が品川に乗り入れる一方、横須賀線は東海道線と同じ線路を走っていたのだ。

この絵本の面白さは「描かれた時期」だと飯島さんはいう。本が刊行されたのは1978年。絵本に車掌の乗った姿が登場する都電荒川線は同年4月に全車両のワンマン化が完了し、本の中で「とえいちかてつ・6ごうせん」「とえいちかてつ・1ごうせん」と書かれている地下鉄は7月に「三田線」「浅草線」と呼ばれるようになった。さらに、10月には貨物列車などを削減する国鉄の大規模ダイヤ改正も行われた。ちょうど、東京の鉄道が大きく変化している時期に描かれていたのだ。

「まさに進化していく瞬間を切り取っているんです」と飯島さん。その当時の情勢が編集を難しくしたのだろうと気付くと同時に「今見ると、当時の鉄道網を改めて感じることができるタイムカプセルのよう」と、大人になったいま、改めてこの絵本の魅力を感じるという。

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