「天草エアライン」が、たった1機で起こす旋風 理想的な中小企業の姿がここにある

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近年、力を入れているのがフェイスブック(Facebook)を活用した情報発信だ。2011年9月に開設した天草エアラインのフェイスブックアカウントには現在1万1000人のフォロワーがついている。きっかけとなったのは、2010年6月から天草エアラインの非常勤取締役に就任した放送作家の小山薫堂氏が当時の天草エアラインの社長であった奥島透氏にフェイスブックの活用を進言したことだった。

理想的な中小企業のひとつの姿か

小山氏は天草市の出身で、熊本県のゆるキャラ「くまモン」の仕掛け人としても知られる。インターネットでの情報発信に多額の予算を投じられない中で、おカネをあまりかけずに情報発信できるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用しない手はないと小山氏は考えたのだった。

天草エアラインの新制服

天草エアラインのFacebookページでは、朝の天草空港の様子をはじめ、機体洗浄をしている写真、社内訓練の様子、出発準備中の客室乗務員の笑顔、予約センターでの一コマ、PRイベントのレポート、地元のイベント情報、そして天草エアライン便の運航状況などを、社員が自由に発信できるようにした。社員が頻繁に登場し、時には社長の誕生日会の様子もアップされることもあるなど、楽しい中身になっている。

最新の運航情報を出すことも多い。整備で不具合が見つかり、修理をした上で運航するような状況や欠航、遅延などのネガティブな情報も丁寧に説明している。そこで天草エアラインのファンになった乗客がFacebookやTwitter、ブログなどで天草エアラインについて投稿することで、さらにファンを増やしていくという好循環になっている。

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天草エアラインが有名になったことに伴って、乗ること自体が観光となる「観光エアライン」として、天草を訪れる観光客も増加した。天草は福岡から陸路で4時間近くかかるが、飛行機ならわずか35分。福岡からなら日帰りも可能だ。

また、天草はキリスト教が禁教だった鎖国時代もクリスマスを欠かさずに祝い続けていたことに着目し、日本で唯一のグリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロースであるパラダイス山元氏が主導し、天草は2013年に「サンタクロースが来る街」となり、サンタクロースが毎年天草エアラインでやってくるなど新たな動きも見られた。

前出の小山氏は「天草エアラインでは社員が全部の仕事をするから強い。社長というのは社内のことをあらゆる立場から物事を考えますが、今の天草エアラインの社員はみんなそれができている。全員が社長なんです」と語る。部署の枠に縛られず、会社全体のことを社員全員が考える。それは理想的な中小企業のひとつの姿かもしれない。

鳥海 高太朗 航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

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とりうみ こうたろう / Kotaro Toriumi

1978年千葉県生まれ。成城大学経済学部経営学科卒。食品会社、コンサルタント、城西国際大学観光学部助手を経て現職。専門は航空会社のマーケティング戦略。利用者・専門家の双方の視点から各社メディアを通じて情報発信をしている。

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