欧州で流行する「国民投票」には問題がある 政治不信が根強いままでは悪用される危険も

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今国民投票が流行している背景には、国民が代議士に不信感を抱いている事情がある。民主主義国家では本来、国民が国の課題について十分な知識や勉強する時間がないため、代わりに判断してくれる候補者を選ぶ。しかし国民投票になると、国民は専門知識に疎いまま直感で判断してしまう。その結果、扇動政治家に操られてしまうのだ。

英国でのEU離脱をめぐる議論も、実はほとんどが感情的な対立にすぎない。英国がいかに偉大な国だったかなどという、本末転倒な議論が平気で行われている。

英国の有権者の多くは欧州委員会や欧州理事会の役割についてほとんど知らないまま、英国がEUにとどまれば移民が押し寄せるなどと不安視しているのだ。キャメロン首相が嫌いなどという理由でEU離脱を選ぶ英国民も今後増えるかもしれない。

英国だけではない。オランダとフランスでも、2005年の国民投票で欧州憲法条約が否決された際、条文を読んだ人はほとんどいなかった。有権者が直感で判断してしまうのは共通の傾向といえる。

ポピュリスト台頭に歯止めを

多くの国民が代議士への不信、政治エリートへの不満を抱えてしまうのも無理はない。しかし、それを根拠に国民投票に臨むのであれば、本末転倒だ。本質的な論点とは無関係だからである。

国民投票の結果がもたらす影響は甚大だ。たとえば英国がEUを離脱すれば、英国だけでなくほかの欧州諸国にとっても壊滅的な結果をもたらす可能性がある。ハンガリーが難民危機への協力を拒めば、追随する国が出てくるかもしれない。

こうした悲劇に陥る可能性が生じている根本的な原因は、現状の政治への根強い不信感だ。政治への信頼回復がなければ、権力はポピュリストたちの手に渡ってしまうだろう。
 

週刊東洋経済3月26日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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