特徴としては、やたら抽象的、概念的な言葉が多いこと。たとえば、「新しい価値を創造する」「イノベーションを」「当事者意識を持ちましょう」「切磋琢磨してください」「社会人としての自覚を持ってください」「明確な問題意識をもって」「会社に貢献してください」などと言う言葉を聞いたとき、皆さんは、自分が明日からどうすべきか、具体的な行動が思い浮かぶだろうか。
こういう上位概念は、経営者のあいさつの中にはよく登場するが、問題は、聞き手の頭の中にイメージや絵がわかないため、実際に行動を喚起しにくいことだ。また、非常にドライな無味乾燥ワードであるため、感情的な共感も生まれにくい。
必要なのはトッピング
では、どうしたらいいのか。味のないうどんであれば、出汁や調味料を入れなければならない。ねぎや天ぷらなどのトッピングを載せてもいい。彩りと食感と、味わいを加えていく必要があるということだ。
たとえば、こんなトッピングはいかがだろう。
① ロジック
驚くようなファクト、データ、調査結果など。
② ストーリー
社員や社長、商品、サービスについてのエピソードや思い出、パーソナルストーリー。成功話や自慢話よりは失敗話。聞く人の共感を呼ぶ「あるある」話。たとえ話。
③ 質感のある言葉
ツルっとのど越しよく通り過ぎしまうありきたりの言葉ではなく、心に摩擦を起こす言葉。持ち帰ってもらえるパンチのある言葉。
トップの個人的な思い出話だっていい。アフリカの奥地に行って、5年かけて鉱山を開発した社員の話でもいい。その際、気を付けたいのは、事実の羅列にしないこと。その時、どういう思い、感情を持ったのか、どうやって挫折を乗り越えたのかを「描写」することだ。「心のひだ」を垣間見せられたときに、人はつき動かされる。いかにも事務方が書いたような「原稿」を読むだけでは、絶対に心をとらえることなどできない。聴衆は「生々しい言葉」を求めている。
それでは、そんな「生きたあいさつ」の参考となるスピーチを2つご紹介しよう。ひとつ目は、伊藤忠商事の岡藤社長の入社式のあいさつだ。
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