IT産業は米国の生産性向上に貢献していない シリコンバレーが米経済に貢献できない理由
また、グーグルやフェイスブックの価値の一部は広告によってもたらされる。広告を見た人が買い物をすれば、やはり統計に反映される。消費者はまた、さまざまなアプリにもカネを出している。
統計の示す教訓を受け入れよ
こう考えてもいいだろう。IT産業の規模は生産性の伸び率の下降分すべてを穴埋めできるほど大きくない。生産性の伸び悩みにより米国のGDPは約15%縮小したというが、IT産業は2004年時点でGDPの7.7%しか占めていなかった。たとえ2004年以降、無料で使えるネットサービスの重要性が増したとしても、GDPに占める割合がそれほど大きくなったとは考えにくい。
また、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソン 教授(経営学)とエラスムス大学経営大学院(オランダ)のオ・ジュヒ准教授(経営学)は2012年、人々がネットを利用した時間の長さを元に無料ネットサービスがもたらす1年あたりの利益を試算した。結果は約1060億ドルで、GDPの1%にも、生産性の伸び悩み分にも届かなかった。
シーバーソンはほかの方法でもインターネットの価値を試算してみたが、結論はすべて同じだった。生産性の伸びが以前に比べて落ちているのは事実だったのだ。
こうした意見をITを過小評価しているととらえるのは誤りだ。経済の牽引役としてのインターネットがもっとも力を持ったのは1990年代の半ばから終わりにかけてだったと思われるが、当時の経済生産性は非常に高かった。ITは今でも米経済において最も成長している分野であり、今後もそうだと思われる。影響力はさらに大きくなっていくだろう。もっともIT産業の力を過大評価する人々が期待するほど、その衝撃の絶対値は大きくはないかもしれないが。
ともあれ、米国が生産性の大きな問題を抱えているのは間違いない。多くのネット起業家は確かに経済界におけるヒーローだが、統計当局も非常にいい仕事をしていることを私たちは認めなければならない。そして統計に刻み込まれた教訓を虚心坦懐に受け入れるべきかもしれない。
米国の生産性の危機は本物であり、今も続いている。将来的に状況打破の担い手として最も期待できるのがIT産業なのは確かだが、今までのところシリコンバレーは米経済の救世主になるには至っていない。
(執筆:Tyler Cowenジョージ・メイソン大学教授、翻訳:村井裕美)
(c) 2016 New York Times News Service
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