消費者金融専業会社シミュレーションにおけるムーディーズ想定の調整と今後のポイント 《ムーディーズの業界分析》

拡大
縮小


 ムーディーズは、現在のところ格付け先各社においては、差し迫った流動性・資金調達面での問題はない、と見ている。とはいえ、事業環境の悪化により、国内外金融機関の財務的余力が低下している一方で、当該消費者金融業界は規制環境の変化にも直面していることから、以前に比べて金融機関の当該業界への資金提供については慎重なスタンスをとっている。

厳しい環境下にあって、資金調達面における構造的な脆弱性は、当該業界における営業オペレーションの一定の制約となるとムーディーズは考えている。とりわけ、1) 国内金融機関との調達面における調達源ないしは調達関係が限定的、2) 市場性の調達割合が相応に高い場合には、投資家の需要が限定的である等の制約があり、調達の柔軟性の低下に繋がる──とりわけ海外金融機関との間のコベナンツ付きのクレジットファシリティについては、利息返還動向もファシリティ活用に影響しうることから、利息返還請求の動向次第では調達の柔軟性の低下に繋がる──等の調達上の構造は、現状においては一定の制約として、ムーディーズは見ている。

資金調達面において大きな懸念のないメガバンク系列の格付け先とは異なり、所謂「独立系」と分類される格付け先においては、資金調達面において特に注視される傾向がある。メガ系列に見られるような銀行との垂直的な関係が希薄なことに加え、これらの格付け先においては、資金調達面における柔軟性の面で、前述のような資金調達構造上の相対的な脆弱性をそれぞれ抱えており、今後の柔軟性改善は重要な経営課題である、とムーディーズは見ている。

ムーディーズは、国内外の金融機関にとっての当該業界に対する資金提供における一番の懸念点は、利息返還請求の動向が明確な減少傾向を示していない点である、と考えている。従って、同動向の高止まりが継続することを想定する限りにおいて、資金調達の柔軟性の確保に向けた経営課題は、通常時より重要性が増しているとムーディーズは認識している。

前述した諸々の財務インパクトや資金調達面での課題は、ムーディーズが2009 年5 月下旬にとった格付け先各社に対する格付けアクションに反映されているが、そのインパクトの大きさについては個々の企業によって異なる。詳しくは個々の格付けアクションについてのプレスリリースを参照されたい。

ムーディーズは、今回の諸々の前提についての調整を行っているが、格付け上のポイントはこれまでと同様に、利息返還請求にかかるリスクの動向がその機軸である、と見ている。具体的には、格付け先各社の経営安定化に関して、以下の尺度のモニタリングが必要である、とムーディーズは考えている。

〔1〕ムーディーズが調整したリスク総量に対して、格付け先において生起する現実の利息返還請求にかかる現金返還額及び元本放棄額、並びに総量規制の影響も包含する貸出元本償却額の和の損失額とのダイナミクス。

〔2〕トップライン収益との利息返還請求関連の損失をも包含する広義の意味での信用コストのダイナミクスとその帰結としてのROAの趨勢。

〔1〕については、現実の損失がムーディーズ想定のリスク量を上回るペースで推移した場合、格付けに下方圧力がかかることになる。また、〔2〕については、基本的には(1) と同義である。しかしながら、与信の厳格化の度合いが高まるとトップライン収益低下のみならず、信用コストの増加、営業基盤の低下懸念等を通じて経営安定化プロセス長期化の懸念に繋がるため、各社のトップライン収益動向と信用コストのバランスには特に注視してモニタリングを行う。

また、ムーディーズは、資金調達構造の柔軟性において課題のある独立系の格付け先については、同調達面における柔軟性の改善動向も上記動向と併せて継続的にモニタリングしていく。

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT